民主党の医療政策

2009年8月〜2010年10月 掲載

2009年

8月

01日

さあ、総選挙です

2009年8月1日

 いよいよ、今月の30日が投票日と決まりました。

  公的医療保険で十分な医療サービスが受けられる状況下に於いては、誰もがこれを利用して医療を受けます。従って、民間の保険が成り立つためには、公的医療保険で受けられる医療を量的に制限するか、もしくは質的に低いものにしなければならないのです。
その具体的な手段として、①新規に開発された制癌剤を保険収載しない、②風邪薬、胃薬、軟膏、湿布薬等を保険薬から除外する、③患者自己負担割合を引き上げて受診を抑制する、④診療報酬を引き下げて医療機関を経営破綻に追い込み病床数を削減する、⑤医師数を抑制する、等々の考えられる限りの有りとあらゆる卑劣な改悪が行われてきたのです。しかも、政府はこれらの改悪政策に、「改革」だの「医療費の適正化」だのといったお為ごかしの美名を付して、国民を欺いてきました。


 本来なら公的医療保険で扱うべき医療を制限・縮小し、自由診療に移し替えてしまえば、民間の保険産業が参入する余地が拡大します。つまり、所得に余裕の ある人々は、民間の医療保険に加入して、上乗せ部分の高度な医療技術を享受したり、入院・手術等の不測の事態に備えるようになります。以前は商売の対象に ならなかった医療分野が営利を産む市場へと変貌し、金儲けをしようと企む企業が次々と参入してくる時代となったのです。すなわち、政府やその片棒を担いで 医療に参入した株式会社達は、国民のためではなく、自分達の利益のために公的医療保険制度を改悪・破壊したのです。小泉内閣が推進した「規制改革」とは、 医療に市場原理を導入し、国民の命と健康を守る医療制度を営利目的の制度に作り変えてしまうものだったのです。その結果、所得の低い人達は、最初から上乗 せ部分の医療をあきらめざるを得ません。また、既に疾病に罹患していて医療を利用する機会の多い事が予想される人達は、保険料増額や加入制限等により民間 医療保険から敬遠されたり排除されたりする危険性が高くなります。分かり易く言い換えるなら、お金のある人は良い医療が受けられますが、お金のない人は医 療から遠ざけられてしまうのです。貧富の差が命を左右するようになったのです。

 全ての国民がいつでも、どこでも、最適な医療が受けられる公的な医療保険制度が、小泉「構造改革」によって、破壊され続けてきました。破壊されたのは医 療保険制度だけではありません。2000年(平成12年)に創設された介護保険制度も、2003年、2006年と2度に渡って介護報酬削減等の改悪が行わ れました。そして、本年4月には3度目の改悪が行われ、保険料の値上げや利用サービスの制限が断行され、今や「保険有って制度無し」と言われる有様です。

 皆さん、まだ記憶に新しい2005年(平成17年)夏の衆議院解散・総選挙を思い出して下さい。この選挙では、小泉純一郎が声高らかに「改革」を連呼 し、少しでも異を唱える人々には「抵抗勢力」の烙印を押して一刀両断に切り捨てました。そして、「改革」「民営化」という如何にも耳障りの良い言葉に惑わ された多くの国民が、過大な期待を寄せて自民党を大勝させてしまいました。しかし、残念ながら、国民の期待は裏切られ続けました。その後の4年間における 日本の凋落ぶりには目を覆うばかりです。
坂を転げ落ち、奈落の底で、もがいています。
今回の解散・総選挙はこの様な閉塞的状況を打開する絶好の機会です。
「構造改革」路線と決別し、国民生活を何よりも優先する政党はどこか?
患者・医療担当者の双方が安心出来る社会保障制度を確立する事に身命を賭してくれる政治家は誰か?
じっくりと見極めたいものです。
私達の一票がこの国の命運を決めるのです。
8月30日は是非、投票に行きましょう。 

2009年

9月

01日

ついに、政権交代が起きました。 民主党の医療政策 第1回

2009年9月1日

 先日の総選挙で、従来の自公連立政権に代わり民主党政権が誕生する事になりました。
そこで、民主党が選挙前に公表した「マニフェスト」及び「民主党政策集INDEX 2009  
医療政策<詳細版>」を検討します。
そして、今後の医療保険制度への期待を述べると同時に、問題点を指摘します。
 
 民主党が掲げた医療政策の主な項目を列挙します。
1.自公政権の社会保障費削減方針を撤廃、総医療費をOECD加盟国平均まで引き上げ。
2.地域医療を守る医療機関を維持。
3.中医協(中央社会保険医療協議会)の改革。
4.医師養成数を1.5倍に増加。
5.医療従事者の職能拡大と定員増。
6.後期高齢者医療制度の廃止。
7.レセプトオンライン請求の「完全義務化」から「原則化」への変更。
8.「包括払い」制度の推進。
9.療養病床38万床を維持。
 まだ他にも民主党の医療政策は数多くあるのですが、まずはこれらの項目について、シリーズで順に考察を加えていきます。私は自公政権による医療政策を批判してきましたが、民主党の医療政策にも良い面と悪い面があり、この両面から複眼的に評価する必要があります。途中で項目が増加する可能性もあります。


1.自公政権の社会保障費削減方針を撤廃、総医療費をOECD加盟国平均まで引き上げ

 既に「院長から一言(平成21年1月1日)」で述べたように、小泉(自公連立)政権は医療・年金・介護の給付費の自然増に対して、2002年度から2006年度にかけての5年間に、約1.1兆円の伸びを抑制しました。
さらに2006年には、「骨太の方針2006」を閣議決定し、2007年度以降の5年間においても社会保障費の自然増を1.1兆円(毎年度2,200億円)抑制する方針を示しました。
この方針にのっとり、現在もなお社会保障費は削減され続けています。
 
 民主党は、自公政権が「骨太の方針2006」で打ち出した社会保障費削減方針(年2,200億円、5年間で1兆1,000億円)を撤廃する、と明言しています。
さらに長期的には、G7(先進7ヶ国)中最下位である医療費総額の対GDP(国内総生産)比(現在8.1%)をOECD(経済協力開発機構)加盟30ヶ国平均の8.9%程度に引き上げる事を目指す、とも言っています。
 
 ちなみに、私も1月1日時点では知らなかった事実があります。
ひょっとしたら民主党の政策立案者も気が付いていないのかも知れません。
それは、5年間で総額「1兆1,000億円」の抑制という数字その物もまやかしだという事です。つまり、こういう事です。社会保障費の増加を毎年 2,200億円ずつ減らすという方針からは、2,200億×5=1兆1,000億ですから、単純計算では、5年間で計1兆1,000億円減らされるだけの ように見えます。1兆1,000億円「だけ」という表現は不適切かも知れません。
何しろ、この金額だけでも消費税0.5%分に相当するのですから。
 しかしながら、実際に減額される社会保障費はこんなものではないのです。
前年に減らされた金額を元に、翌年さらに減らすのですから、5年間の総額では、
2,200+2,200×2+2,200×3+2,200×4+2,200×5=33,000となります。
即(すなわ)ち、5年間で合計3兆3,000億円の社会保障予算が削られるという事なのです。
1兆1,000億円ではなく3兆3,000億円もの社会保障費が削減されるのです。本年(2009年)度予算の一般会計における社会保障関係費は約21兆 円ですので、その2割近くに相当します。当然、患者が受ける医療サービスは低下し、医療機関が受け取る報酬は減ります。
そして、一旦削減されれば、回復することなく、低い水準のまま継続するのです。
 
 「院長から一言(平成21年1月1日)」で述べたように、我が国は1960年代以降約50年間に渡り、医療費抑制政策を執り続けてきました。取り分け、 この医療費抑制政策が顕著になったのは、1983年(昭和58年)に厚生省が「医療費亡国論」を発表して以降です。
民主党の医療費「増加」政策が実現すれば、長年続けられてきた医療費抑制政策の根本的転換となります。医療費「増加」政策の実行を是非とも期待したいものです。
                                                              
                            次号へ続く

2009年

10月

01日

民主党の医療政策 第2回

2009年10月1日

 今回も、民主党の医療政策の目玉である「自公政権の社会保障費削減方針を撤廃、総医療費をOECD加盟国平均まで引き上げ」政策について述べます。
 
 政権交代により社会保障政策が大きく転換され、医療費が大幅に増額されようとしています。この歴史的な政策転換には、国際的な視点から、格好の前例があります。
それは、1997年の英国です。
 英国では、1979年に保守党が政権をとり、マーガレット・サッチャーが首相となりました。サッチャー政権とそれに続くメージャー政権は、「英国病」と国際的に揶揄(やゆ)された状況――不況で失業率が高く、各種国民の負担も高い経済の停滞状況――を打開する施策の一環として、「小さな政府」を唱えました。そして、1980年代後半から「規制緩和」を進め、公的負担を低減し、民間活力を導入して、徹底的な競争原理により経済の活性化と国際競争力の強化を目指す政策を執りました。実施されたのは、支出を増やすのではなく、「効率」を高める政策でした。その「聖域無き改革」は医療も例外ではありませんでした。具体的には、医療機関の間に競争原理を導入し、民間企業による医療提供と医療保険への民間参入推進が行われました。

サッチャー改革は、財政難を背景にした改革でしたが、結局は不成功に終わりました。競争の結果、不採算病院の閉鎖とそれによる地域の病床不足、さらに医 療職の雇用減少が起こったのです。必然的に、医療事故が増加し、かかりつけ医への受診待ちや病院への入院待ち、さらには手術までの待機日数等も増加し、国 民の政府への不信感は募(つの)っていきました。保守党(サッチャー政権)による医療制度改革は、いわば市場化の試みだった訳ですが、市場化では、競争原 理の悪い面ばかりが表れてしまいました。競争により生じた医療の質の格差が甚だしくなったのです。居住地域や貧富の差によって受けられる医療が違う状況と なってしまいました。これは、「院長から一言(平成21年7月1日、及び8月1日)」で述べた小泉「構造改革」の顛末(てんまつ)と構図がそっくりではあ りませんか!
 小泉総理が断行した「構造改革」とは、医療分野への市場原理の導入であり、その結果もたらされたのは、万人平等であるべき公的医療保険制度の破壊です。
現在の日本の状況は、まさしく、かつての英国の姿と重なるのです。
 1997 年、トニー・ブレアが率いる労働党が政権を奪取しました。
ブレア首相は、保守党とは正反対の、大胆な医療制度改革を実行しました。
改革の2本柱は「医療への公的支出増加」と「医療従事者の増員対策」です。
特に、国民に必要十分な質の高い医療を確保するためには著しく財源が不足しているという観点から、医療費の増加策を前面に打ち出した事が、極めて革命的と評価されています。では、ブレア首相は医療費をどの位、増やしたのでしょうか?
2000年には対GDP比で7%以下だった医療費を、2008年には9.2%まで増やしたのです。実額では、1997年ブレア首相就任時の2倍以上になりました。
その結果、病院の入院待ち日数等の諸分野において医療の質が著しく改善しました。
 かつて、日本と英国はGDPに占める医療費の割合(対GDP比)において、G7の中で最下位争いをしていました。1995年以降、日本の方が英国より高 い時代が続きましたが、2004年に追いつかれ、2006年にはついに英国(8.4%)が日本(8.1%)を上回りました。
これは、民主党政権誕生以前の日本とブレア改革以降の英国との、対照的な政策の差を反映していると言えます。すなわち、英国はブレア改革により医療費を増 額してマンパワーを増やしたのに対し、日本は小泉改革により社会保障費の自然増を毎年2,200億円ずつ減らし医療崩壊を招いたのです。
 
 民主党は、自公政権の社会保障費削減方針を撤廃し、総医療費をOECD加盟国平均まで引き上げる事を公約しています。 
政権交代による医療費増額政策への転換という点において、我が国と英国の軌跡は酷似しており、民主党の医療政策は大いに評価できます。

2009年

11月

01日

民主党の医療政策 第3回

2009年11月1日

2.地域医療を守る医療機関を維持
 
 民主党は、次のように公約しています。
①地域医療を守る医療機関の入院については診療報酬を増額する。
その際、患者の自己負担が増えないようにする。
②4疾病5事業を中核的に扱う公的な病院(国立・公立病院、日赤病院、厚生年金病院等)を政策的に削減しない(4疾病とは癌・脳卒中・急性心筋梗塞・糖尿病、5事業とは救急医療・災害時医療・僻地医療・周産期医療・小児医療)。


 民主党が地域医療崩壊を修復するための措置を講じようとしているのは分かります。
しかし、この公約は公的病院の入院に偏重していると言わざるを得ません。
民主党の「マニフェスト」「INDEX 2009」のどこを読んでも、日本の地域医療の大半を支えている民間中小病院や診療所の役割に対する言及は皆無です。民主党は、救急医療の主役は公的病院であるという誤った認識をしているのではないかと懸念します。
実際には、全国的に見て、救急搬送患者の約6割を民間医療機関が受け入れており、しかも、この割合は大都市圏でより一層高い傾向にあります。
 
 地域医療とは、公的病院の入院部門だけで成り立っているのではありません。
慢性期病院の入院部門や、民間中小病院、有床診療所、無床診療所、さらにはその受け皿となる療養病床等の全ての医療機関が連携してこそ、地域医療提供体制 が構築され、機能を発揮する事が可能となるのです。公的病院だけではなく、全ての医療機関が崩壊の危機に瀕している事への配慮が、残念ながら民主党の公約 には欠けています。
 
 かつての自公政権と同様に、民主党も「医療崩壊」の本質を理解していないのではないかと疑わざるを得ません。
「崖っぷちの日本医療を必ず救う!」と宣言したからには、もっと広い視野と深い知識を持って政策を立案してもらいたいものです。

2009年

12月

01日

民主党の医療政策 第4回

2009年12月1日

3.中医協(中央社会保険医療協議会)の改革
 
 民主党は、中医協(中央社会保険医療協議会)の構成・運営の改革を行う、と公約しています。中医協とは厚生労働大臣の諮問機関で、診療報酬の価格を決定します。
健康保険組合連合会(健保連)など支払い側の7人と、日本医師会など診療側の7人、そして公益代表6人の計20人の委員で構成されています。
  総選挙前の今年7月、当時の岡田克也民主党幹事長は「医師会は開業医中心だ。利害関係者が自分達の取り分を決める政府の制度は他にはない」と発言し、診療報酬改定は「最終的には国会で議論して決める」と表明しました。
私も、診療報酬の改定率を最終的に国会で議決する事に賛成です。
なぜなら、中医協が政府の医療費削減策の片棒を担ぐ危険を回避できるからです。

しかし、岡田氏の発言は誤解と偏見に満ちていたと言わざるを得ません。
岡田氏は次の2点を知らないか、あるいは無視していました。
①中医協の診療側委員には既に病院団体代表が2名加わっており、開業医に偏っていた訳ではありません。最近の診療報酬改定は、決して開業医が「自分達の取り分を決める」ものとはなっておらず、逆に病院に最大限配慮した改定が行われてきました。
②中医協は公開の場で議論し、議事録も全て公表されてきました。
さらに、診療報酬改定の影響を調査し(不十分な調査ですが)、その結果を次回改訂の際に考慮する(これもまた、不十分な考慮ですが)など、他の政府委員会よりも透明で公正な運営が行われてきました。
 診療報酬改定は2年に1度行われ、その議決内容、影響調査の内容、次回改訂時の考慮程度のいずれもが、政府の社会保障費削減政策を大いに反映してきました。
2年毎に診療報酬は削減され、報酬の算定条件などの中身も大きく変更されるため、我々医療機関はその度に経営方針の見直しを迫られ、本業の診療に集中する事ができません。
しかも、年度末の3月中旬に改定内容が発表され、翌年度4月1日からの新制度開始まで僅(わず)か2週間で準備しなければならないのです。
改訂の頻度は5年に1度位にして、周知徹底(準備)期間も半年位は頂きたいものです。
 我々開業医は、これまでの中医協の運営・決定には大いに不満を感じ、憤りを覚えています。けれども、不満ではありますが、決して、不公平な運営だとは思っていません。「開業医が自分達の取り分を決めて」きた訳ではないのです。
民主党はこれまでの中医協の運営を誤解しているとしか思えません。
 この様な状況下、この10月1日に、支払い側委員7人中3人、診療側委員7人中6人が任期満了を迎えました。
長妻昭・厚生労働大臣は10月26日、注目された新委員を発表しました。
診療側委員の任期満了者6人全員が規約上再選可能で、この内3人は日本医師会の役員でしたが、3人とも再選されず、中医協から日本医師会が排除されてしまったのです。
 この中医協人事に関して、仙石由人行政刷新担当大臣は「日本の医療界を覆う権威とパワーが、これまでの延長線上で日本の医療を再建できるとは思わない。一旦白紙に戻す必要がある」との見解を述べました。
これは、「開業医を多く抱える日本医師会が自らに有利な価格設定を行ってきた」という判断に基づく見解ですが、この判断は上述した通り、大いなる誤解・偏 見に満ちています。さらに付言すれば、日本医師会は計16万5,000人の医師から成っていますが、勤務医と病院・診療所の開設者はほぼ半数ずつで、決し て開業医中心でもありません。 
 また、中医協の設置を定めた社会保険医療協議会法は「中医協の診療側委員は、医師、歯科医師及び薬剤師を代表する者とする」と定めています。
さらに、「中医協の在り方に関する有識者会議」の報告書には、「厚生労働大臣が委員を一方的に任命するのではなく、それぞれを代表するに相応(ふさわ)しい者を関係団体が推薦し、これに基づいて厚生労働大臣が任命すべきである」と記載されています。
日本医師会は、地域医療を担っている47都道府県医師会、891郡市区医師会、60の大学医師会などとの密接な連携のもとに日本の医療を支えてきた訳ですから、まさしく、医師を代表するのに最も相応(ふさわ)しい団体です。
にもかかわらず、民主党が上記法律や報告書を無視した一方的人事を行った事は、極めて独断的であり、かつての小泉総理の専制君主的な政治手法を想起します。
 私は、今後の中医協における診療報酬改定議論において、病院と診療所の間で財源を奪い合うような対立構造が生じるのではないかと危惧します。
 民主党政府の方針は、「診療所の配分を減じて病院の配分を増額する」という事であり、この方針を具現化するために、中医協から日本医師会を排除し、診療 側委員の大部分を大学や病院関係者の代表にしてしまいました。しかしながら、医療は公的病院や大学だけで行えるものではなく、民間の慢性期病院や診療所の 役割も非常に重要です。
これまで、日本は充実した医療を低コストで提供してきました。その中心は民間の医療機関です。現在、大流行している新型インフルエンザを例にとっても、他国に比較して死亡例が極めて少ないのは、第一線の診療所が質の高い医療を提供しているからです。
 病院の疲弊は、決して医師会が略奪した結果ではなく、旧自民党政権下で展開された医療費削減政策の結果です。医療費を下げた結果生じた問題は、医療費を 上げて解決しなければならないのは明白です。片方を削って得た財源でもう片方の資金を賄う手法は、政府から見れば帳尻があったとしても、医療を受ける国民 の側から見れば、新たな機能不全が生じる事は必定です。異なったグループ間で均等化を図っただけでは問題は解決しないのです。医療費全体を底上げしないと 日本の医療は改善されないのです。
民主党政権がこんな簡単な理屈を理解できないで、愚策を講ずる事がないように、祈ります。

2010年

1月

01日

民主党の医療政策 第5回

2010年1月1日

明けましておめでとうございます。今年も、毎月、医療に関する話題を提供します。

4.医師養成数を1.5倍に増加  
 
 民主党は、次のように公約しています。
①医療崩壊をくい止めるため、また、団塊世代の高齢化に伴い急増する医療需要に応え、医療の安全を向上させるため、医師養成の質と数を拡充する。
当面、OECD諸国の平均的な医師数(人口10万人当たり医師300人(正確には310人))を目指す。
②大学医学部定員を1.5倍にする。
 
 「院長から一言(平成21年1月1日)」で述べたように、厚生省が1983年の「医療費亡国論」で「医師過剰時代」を喧伝し始めて以降、医師数の抑制を目的に、大学医学部の入学定員は抑制され続けてきました。その結果、「院長から一言(平成21年2月1日)」で述べたように、現在の日本の医師数は計26万人で、人口10万人当たり201人です。これは、世界192ヶ国中63位と中位の水準であり、OECD(経済協力開発機構)30ヶ国中では27位と先進国の中では最低クラスです。当然、G7(先進7ヶ国)では最下位です。
OECD平均(人口10万人当たり310人)並みにするためには、日本の医師数は計38万人必要ですので、12万人も不足しています。

「院長から一言(平成21年3月1日)」で述べたように、昨年9月に、当時の舛添要一厚生労働大臣の私的諮問機関「安心と希望の医療確保ビジョン具体化 に関する検討会」が「我が国の医師数は絶対的に不足しており、将来的には医学部の定員を現在の1.5倍程度となる1万2000人に増やす必要がある」と勧 告しました。これを受けて、麻生(自公)政権はようやく「医師不足」を認め、2009年度以降の医学部入学者数を過去最大規模の8,486人に増員する事 を決定しました。
今後10年間で医学部入学定員を2,500人増やす、すなわち、毎年250人増やすというのです。現在、毎年3,000人規模で医師数が増加しています が、これを3,250人に増やすという訳です。しかしながら、たったこの程度の増員規模では、12万人も不足している医師数が世界平均に達するまで、今後 30年から40年も「医師不足」が続く計算になります。つまり、この程度の医師数増加策では「焼け石に水」なのです。麻生(自公)政権の医師数増加政策の 問題は、その規模が「焼け石に水」程度の不十分なものである点だけに留まりません。渋々(しぶしぶ)「医師不足」を認めはしたものの、相変わらず社会保障 費予算を毎年2,200億円削減する方針を撤回せず、「ヒトは増やすがカネは減らす」政策だったのです。
 民主党の「大学医学部定員を1.5倍にする」政策は、上述した「安心と希望の医療確保ビジョン具体化に関する検討会」の勧告に忠実に従っています。 「OECD諸国の平均的な医師数を目指す」のも至極(しごく)真っ当な目標だと思います。1983年以降30年近く続けられてきた医師数抑制政策が、医師 数増加政策へと大きく舵を切られるのは、大変喜ばしい事です。
 ただし、これで直ちに医師不足が解決する訳ではありません。
医学部定員が1.5倍に増えるという事は入学定員が4,000人増えるという事を意味します。その結果、毎年の医師数増加は 3,000+4,000=7,000人となります。OECD平均(人口10万人当たり310人)並みにするためには、日本の医師数は12万人不足している のですから、OECD諸国に追いつくのは20年近く先の話です。
「焼け石に水」とは言いませんが、「医療崩壊」を治療する速効性はありません。
医師数が十分に増加するまでの間、次善の策が必要となります。
これについては、次の「5.医療従事者の職能拡大と定員増」の項で述べます。
 医師数増加策には、労働環境の改善や報酬の増額が必須条件です。前政権のような「ヒトは増やすがカネは減らす」政策では、医師数増加など、まさに絵に描 いた餅に過ぎません。民主党政権が、医療関連予算を十分に増額し、医師が働きやすい環境を醸成できるかどうかが重要です。鳩山首相は昨年9月の施政方針演 説で「財政のみの視点から医療費をひたすら抑制してきたこれまでの方針を転換する」と高らかに宣言しました。
 しかし、実際はどうでしょうか?今年4月に行われる診療報酬改定に際して、財務省は旧自公政権と同様に医療関連予算を大きく抑制しようとしているので す。昨年11月に行政刷新会議が来年度予算編成の前段階として行った「事業仕分け」でも、医療関連予算の必要性を説明する厚生労働省医系技官に向かって居 丈高(いたけだか)に声を荒げる「民間有識者」の姿が繰り返し放映され、国民の注目を浴びました。そして、仕分けの結論として、診療報酬の引き上げが否定 され、それに代えて「診療報酬配分見直し」と「医師確保、救急・周産期対象の補助金事業」の半額カットが決められてしまいました。「配分見直し」とは診療 所の報酬を病院に振り向けるべしという、相も変わらぬ開業医叩きです。当欄でも何度も述べているように、医療全体の底上げを図らなくては現下の医療崩壊を 解決できません。「事業仕分け」は国民受けを狙う劇場型政治という点でも、財務省主導という点でも、小泉政権の手法とそっくり同じです。民主党が、総医療 費をOECD諸国平均まで引き上げるという選挙公約を破れば、医療崩壊をくい止める事は不可能です。
 医学部定員の増加政策に関するもう一つの問題点も指摘しておきます。
「行政機関の職員の定員(国家公務員に限る)に関する法律(昭和44年制定)」(通称、「総定員法」)により、国立大学の教官数は、約40年間に渡り一貫 して減らされ続けています。この状況下で、学生だけ1.5倍に増えるのでは、あまりにも大学医学部の負担が大き過ぎます。医学部学生を増やすのであれば、 同時に医学部教官の定員も並行して増やさなくてはいけません。
 民主党の今後の政策を注意深く監視する必要があります。そして、公約に反して前政権の医療費抑制路線を踏襲するなら、国民の力を結集して叱責せねばなりません。

2010年

2月

01日

民主党の医療政策 第6回

2010年2月1日

5.医療従事者の職能拡大と定員増
 
 民主党は次のように公約しています。
①薬剤師、理学療法士、臨床検査技師等のコメディカルスタッフの職能拡大と増員を図り、医療提供体制を充実させ、医療事故防止、患者とのコミュニケーション向上につなげる。
②病院勤務医が診療のみならず、診断書や意見書、紹介状の作成等の事務手続きをしなければならない事により、医師不足に拍車がかかっているため、医師の事務を分担する医療事務員(医療クラーク)の導入を支援する。
③専門的な臨床教育を受けた看護師の業務範囲を拡大し、医療行為の一部を分担させる。
 これら3つの政策は、いずれも、医師数が十分に増加するまでには長い年月を要するため、「医療崩壊」を治療する次善の策として考案されたと思います。
それぞれの政策について、順に私の意見を述べます。


 ①については全面的に賛成です。
医師の負担を軽減し、医療事故防止等につながる事が期待できます。

 ②についても、方向は正しいと思いますが、対象が病院勤務医に限定されている点が気に入りません。診断書や意見書、紹介状の作成等の事務手続きに忙殺されているのは、診療所も同様です。私自身、毎日、最低10-20通前後はこれらの書類を書いています。
これだけで、毎日1-2時間を費やしています。「2.地域医療を守る医療機関を維持」の項でも述べましたが、民主党の医療政策は病院勤務医に偏重しています。
病院だけではなく診療所にも、医療クラークの導入を支援するための報酬を付けてもらいたいものです。病院勤務医に限定した政策は、片手落ちの感をぬぐえません。

 ③については、反対です。到底、容認できません。
「医療行為の一部を分担」する「専門的な臨床教育を受けた看護師」とは、「ナースプラクティショナー(NP)」を指していると思われます。
大分県立看護科学大学が、一昨年(2008年)、NP養成の修士コースを開講した事がNHKの番組「クローズアップ現代」でも取りあげられたので、ご存じの方も多いでしょう。
 そもそも、NPが政策に取り入れられたのは、昨年(2009年)3月閣議決定された「規制改革推進のための3か年計画」が最初です。この中で、「専門性 を高めた新しい職種(慢性的な疾患・軽度な疾患については、看護師が処置・処方・投薬ができる、いわゆるナースプラクティショナーなど)の導入について、 各医療機関等の要望や実態等を踏まえ、その必要性を含め検討する」と書かれています。御多分に洩れず、長ったらしい役人言葉で理解しにくい文ですが、要す るに、医者が足りないから看護師にその代わりをやらせよう、という事です。何と浅はかな考えでしょうか!あきれて物が言えません。
 高名な医師の中にも、米国でNPが貴重な新戦力として活躍しチーム医療の一翼を担(にな)っているという観点から、我が国へのNP導入を歓迎する方もいます。
しかし、現在の日本でも、医師は看護師や他のコメディカルスタッフと共にチーム医療を行っています。そもそも、米国と日本では、医療事情が全く異なるのです。
 米国ではプライマリケア医(初期診療を行う医師)は外科医などに比べて収入が半分以下で、1998年以降の8年間でプライマリケア医を目指す医学生は 51%も減少したそうです。プライマリケア医の数は著しく不足し、保健医療の危機が叫ばれる中、編み出された資格がNPでした。医師が施すのと同じ治療を NPが施した場合も、医療機関には医師診療報酬の85-100%が支払われました。一方、医療機関がNPに支払う給料はプライマリケア医の半分で済みまし た。その結果、医師の代わりにNPを雇って診療させた医療機関は莫大な利益を得るようになり、瞬(またた)く間に全米にNPが普及したのです。
NPは医師に比べ給料が安いだけでなく、その育成にかかる教育費も安く、教育期間も短いため、実働できる医療者を早く低コストで確保する事が可能になりま した。今や、無医村・スラム街・アメリカ原住民(インディアン)居住区では、NPは無くてはならない存在です。また、米国には健康保険に加入していない人 々が5,000万人もいますが、これら無保険者達にとってNPを雇った地域診療所は駆け込み寺となっています。
 一方、日本では、医師の給与が米国のように莫大ではないため、医師の代わりにNPに診療をさせても人件費抑制効果はあまり見込めません。また、日本国民の多くは、米国人とは異なり、所得の高低にかかわらず同じ質の医療を受ける事を望んでいます。
医師ではないNPの診察・治療を自(みずか)ら希望する人は日本では少ないでしょう。
第一、医師の資格は高度な医学的判断・医療技術を担保するために与えられるものであり、診察・治療・処方等はこの資格を有する者だけに許された行為です。
看護師にこの様な行為をやらせたければ、医師の資格を取らせれば良いだけの話です。
 そもそも、患者に対する医療行為の責任を全面的に医師に被(かぶ)せているのが現状の法制度の下で、NPが行った診断・治療に対して、一体誰が責任を負うのでしょうか?
医師が不足しているから看護師にその代わりをやらせようとは、全く笑止千万です。
私は、決して、医師に比べて看護師が劣ると言っているのではありません。また、医師が全てを仕切らなければならないとも思いません。医師の既得権に固執しているのでもありません。医師、看護師、その他あらゆる医療職には各々(それぞれ)の役割分担があるのです。
「医師不足」を理由に他職種に医師の仕事をさせるのではなく、医師が働きがいのある労働環境や報酬を保証し、医療現場に医師を回帰させ、増やさなくてはいけないのです。
民主党は、小泉「構造改革」が日本の国民皆保険制度を破壊するために行った「規制緩和」を踏襲するという愚を決して犯してはなりません。

2010年

3月

01日

民主党の医療政策 第7回

2010年3月1日

6.後期高齢者医療制度の廃止

 民主党は次のように公約しています。
①後期高齢者医療制度を廃止する。
 廃止に伴う国民健康保険の財政負担増は国が支援する。
②国民健康保険と被用者保険(社会保険)を統合し、医療保険制度を一元化する。

 ①については、大賛成です。
後期高齢者医療制度は、「院長から一言(平成20年9月19日)」で既に述べたように、欠陥だらけの制度ですので、廃止して従来の老人保健制度に戻すべきです。
 後期高齢者医療制度の理念は「75歳という年齢で命の線引き」をする事です。そもそも、75歳以上の医療だけを別建てにする根拠が存在しません。医療の 基本的な内容は75歳を過ぎたからと言って大きく変わるものではなく、74歳以下に対する医療と連続しているからです。では、何のために、こんな理不尽な 高齢者差別を行ったのでしょうか?
その目的は「高齢者医療費の抑制」です。簡単に説明すると、75歳以上の高齢者(及び65歳以上の障害者)をひとくくりにして他の世代から分離し、独立し た被保険者集団として孤立させ、この集団の医療費総額が上昇すれば、その集団を構成する高齢者全員の保険料を引き上げるという制度なのです。現代医学の進 歩の恩恵を受けて、長生きする人が増え、高齢化は年々進みます。高齢化が進めば疾病も増加して医療費が増加するのは当然です。限られた集団の中でやり繰り し、増えた医療費を賄(まかな)うためには、集団の構成員が払う保険料を増やさざるを得ません。従って、後期高齢者が負担する保険料は上がり続けます。僅 (わず)かな年金で暮らしている多くの高齢者にとって、上がり続ける保険料を払い続ける事は不可能です。従って、高齢者医療費総額を抑制せざるを得なくな ります。
 医療費総額を抑制するための手段として、2つの仕組みが導入されました。
1つは、診療報酬の削減です。例えば、1)入院が90日を越えると入院基本料を大幅に引き下げる、2)月6,000円という低額で何度でも、どんな病気も 1人の医師に治療させる「後期高齢者診療料」の新設などです。診療報酬が下がれば、当然、高齢者に給付される医療水準も下がり、高齢者の疾病はますます増 えるという悪循環に陥るのです。
 2つめの医療費総額抑制手段は、保険料未納者に対する保険証の取り上げです。
上がり続ける保険料に悲鳴を上げた高齢者が保険料を滞納すると、保険証を取り上げられてしまい、医療機関を受診する際には全額自己負担しなければならないのです。
これにより、高齢者の受診は抑制され、結果的に高齢者医療費総額は抑制されます。
この保険証取り上げは、老人保健制度では許されていなかった禁じ手です。
これは「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を保障する日本国憲法25条に明らかに違反しています。
 高齢者のみを一般の国民から切り離すこの制度は、国民連帯という国民皆保険の根本理念にも、疾病に罹患する確率が高い加入者と低い加入者をプールして、 リスクを社会的に分散するという社会保険の原則にも反しています。これに比べれば、高齢者を従来の医療保険制度に加入させたまま制度間の財政調整を行う従 来の老人保健制度の方が、理念上も社会保険の制度設計上も、はるかに優れています。
国際的に見ても、全国民を対象にした公的医療保険制度を有する国で、高齢者だけを別建てにした差別制度を作ってしまった国は日本以外にはありません。
 人権を侵害する、憲法違反の後期高齢者医療制度がなぜ成立したのでしょうか?
後期高齢者医療制度を含む医療制度改革関連法は、2005年9月の郵政民営化総選挙の圧勝により、独裁的権力を獲得した小泉純一郎首相が、「小さな政府」路線と「巨大与党」のパワーにより、医療団体の抵抗を押し切って一気に、強権的に成立させたのです。
 「時の勢い」で成立した欠陥だらけの後期高齢者医療制度は廃止するしかありません。そして、従来の老人保健制度に戻し、高齢者は元の国民健康保険または 被用者保険(社会保険)(社保)に再加入させます。なぜなら、高齢者の医療制度を一般制度から分離してしまうと、医療内容や保険料において高齢者差別が導 入される危険性が高いからです。
 ただし、老人保健制度が最良の制度という訳ではありません。その理由は、国が老人保健制度に直接投入する負担が35%と低い事、及び、国民健康保険(国 保)財政への国庫支出金がこの25年間でほぼ半減している事です。国保財政を巡る経緯をたどると、国は支出を減らす一方で、保険者(市町村)に負担を求 め、財政規律のための執行については保険者に責任を負わせながら、財政が不均衡になると制裁を強化してきました。また、加入者には、保険料を払わなければ 医療を受けられないという「保険主義」を強めています。高齢者が元の国保に再加入しても、国の支出割合を元に戻さなければ、国保財政が立ち行かなくなりま す。国保財政が立ち行かなくなれば老人保健制度自体も立ち行かなくなります。その意味で、民主党の「国民健康保険の財政負担増は国が支援する」のは正しい 方向です。
 
 ②についても、全面的に賛成です。
我が国の医療保険制度には、国民健康保険と被用者保険(組合健保と協会けんぽ)の2つがありますが、各々の制度間並びに制度内に負担の不公平があります。
これを是正するのは望ましい事ですが、同時に多大な困難を伴う事が予想されます。
それでも、医療保険制度の一元化が実現すれば、国民の生命・健康を公平に支える制度が確立し、国民皆保険制度がより強固になります。

 ところが、民主党は政権交代後、態度を一変し、「4年間かけて」後期高齢者医療制度を廃止すると言い出しました。毎日4,000人の後期高齢者が発生し ているため、日増しに被害者が増える一方です。4年間も野放しにしてはいけません。こんな「姥捨て山」極悪(ごくあく)制度は一日も早く廃止するよう、世 論を高めなければなりません。

2010年

4月

01日

民主党の医療政策 第8回

2010年4月1日

7.レセプトオンライン請求の「完全義務化」から「原則化」への変更

 民主党は次のように公約しています。
レセプトのオンライン請求を「完全義務化」から「原則化」に改め、過疎地の診療所をはじめとする小規模医療機関の撤退などに象徴される医療現場の混乱や地域医療の崩壊が起こらないようにする。

 まず、レセプトオンライン請求とは何かについて説明します。

レセプトとは、患者さんが医療機関にて診療を受けた場合に、かかった費用から窓口負担を差し引いた残りの金額(報酬)を、医療機関が審査支払機関を経て保 険者に請求するための請求明細書です。ちなみに、保険者とは、健康保険事業を運営するために保険料を徴収したり、保険給付を行ったりする運営主体です。健 康保険の保険者には、①全国健康保険協会、②健康保険組合、③国民健康保険、④後期高齢者医療広域連合の4種類があります。
医療機関は、保険者から委託を受けて、被保険者(患者)に療養の現物給付(診療)を行う訳です。レセプトには、患者さんの氏名、生年月日、傷病名、治療開始日、転帰、検査、処置、投薬等の内容が記載されており、診療報酬は審査を受けた後、医療機関に支払われます。
 レセプトの提出方法は、①紙に手書き、もしくは印刷して提出、②CDやフロッピーディスク等の記録媒体で提出、の2通りがありましたが、2007年よ り、③ISDN回線やインターネット回線を用いて提出する方法が加わりました。そして、2011年4月以降はほぼ全ての医療機関に対して③の方法しか認め ない、①②の方法で提出しても報酬を支払わない、という理不尽な決まりが「オンライン請求の義務化」です。
これは、2006年に、国会審議も経ずに、小泉純一郎首相の肝いりで唐突に発せられた厚生労働省令第111号で決められました。

 オンライン請求が義務化されれば、専用コンピューターの購入費用、専用ソフトの導入費用、オンライン接続の敷設(ふせつ)費用、入力のための事務員人件 費、業者への委託費、導入後の保守・点検費用などの多額の経費がかかります。NTTなどのIT業界には巨大な市場をもたらしますが、医療機関には大きな負 担です。特に、これまで手書きでレセプトを作成していた高齢医師はコンピューターが苦手な方が多く、長年地域医療に勤(いそ)しんできたベテラン医師に引 退を迫る事になりかねません。事実、全年齢の開業医を対象にした日本医師会の調査でも、1割近くの医師が、「義務化」されれば閉院すると答えています。
 民主党が義務化を止めて、オンライン請求はあくまで原則とし、例外を認める方向に方針転換するのは、一歩前進ではあります。しかし、「原則化」は将来「義務化」へと進む危険性があります。やはり、オンライン請求は、あくまで①②と共に自由選択制にすべきです。
 医師が診療を拒否すれば報酬が支払われない、というのなら理解できます。しかし、受診してきた患者を診察し、検査を行い、診断を下し、治療を行ったにも かかわらず、紙の請求書やフロッピーディスクの請求書を持ってきてもカネは払わないぞ、カネが欲しければインターネットで集金しに来い!と恫喝(どうか つ)するとは、何という横暴でしょうか!

 オンライン請求「義務化」には、他にも大きな問題が内包されています。
第1の問題は、個人情報漏洩(ろうえい)の危険です。医療機関から審査支払機関に送られたデータは、審査の後、保険者に送信されます。この過程のどこかで 診療情報が漏れやしないか、あるいは盗まれるのではないか、非常に心配です。情報を入手した者(ハッカー)が患者さんの生活に驚異をもたらす可能性もある のです。例えば、精神科や産婦人科の受診歴や、病名、診療内容が悪用されれば、恐喝やストーカー行為等の犯罪に利用し得るからです。紙やフロッピーディス クのレセプトだって盗まれる危険はあるじゃないか、と思われるかも知れません。確かに、そうです。けれども、オンラインで送信される電子データの情報量は 紙に比べて膨大です。何万人分の紙レセプトを盗み出し、それを悪用するのは大仕事ですが、過去の金融機関からの電子データ漏洩事件では、一度に数十万人分 のデータが漏洩しました。これまで、提出された紙レセプトは、保管年数経過に従って順次廃棄されてきましたが、電子データになると、一生涯のデータが半永 久的に蓄積される上に、一度インターネット上に流出してしまうと完全消去する事は不可能です。
この情報を繰り返し利用する事も簡単に行えます。漏洩した際の被害は計り知れません。

2010年

5月

01日

民主党の医療政策 第9回

2010年5月1日

今回も、レセプトオンライン請求の「完全義務化」に関わる問題について述べます。

 第2の問題は、さらに重大です。それは、国がレセプト情報を利用して医療費削減と混合診療解禁を狙っているという事です。オンライン請求先進国の韓国では、レセプトデータから診療科目別・疾患別の平均報酬を割り出しています。医療機関から請求があると、最初にコンピューターで自動審査し、請求額が平均報酬より高いと厳しく減額します。そのため、韓国の医療機関は、平均報酬より高くならないように治療内容を制限せざるを得ません。
そして、審査で認められない医療については、患者が全額自己負担させられています。

政府が開催している規制改革会議は、オンラインで集めたレセプトデータを元に、疾病(しっぺい)毎に健康保険で受けられる医療範囲を「標準的医療」とし て狭くし、その範囲から外れる医療は全額自己負担にする事を求めています。すなわち、混合診療解禁のためにレセプトデータを活用しようとしているのです。 これこそが、小泉「構造改革」内閣のもとで、民間企業経営者が中心メンバーである規制改革会議が強引に推し進めたオンライン請求の真の狙いです。「院長か らの一言(平成21年7月1日、及び8月1日)」で述べたように、混合診療解禁の目的は、健康保険による診療を制限して、患者の自己負担を増やし、民間保 険会社の市場を拡大する事です。そうなれば、保険会社の儲(もう)けは増えますが、国民は健康保険で必要十分な医療が受けられなくなります。
 
 第3の問題は、レセプトデータが民間企業の営利目的に利用される事です。
政府は、全国のレセプトデータに、特定健診・後期高齢者健診・特定保健指導で集めたデータを加えて突き合わせ、分析する目的で、「医療・健康情報ナショナ ルデータベース(仮称)」を構築中です。オンライン請求が義務化されれば、このデータベースの情報量・精度は飛躍的に向上し、医療費動向や疫学的状況の把 握が容易となり、医療費抑制や管理医療の強化が行いやすくなります。規制改革会議は、この診療情報・健診情報の民間活用を求めています。その目的は、民間 企業の健康産業への参入促進です。例えば、「あなたにピッタリの薬」「あなたのためのフィットネスクラブ」などというダイレクトメールを送りつける事が可 能になります。また、保険会社が個人の過去の病気を調べ上げ、告知義務違反を口実に保険金を払わない事態も起こり得ます。さらに、過去・現在の病気を理由 に就職不採用や解雇など、個人に不利益をもたらす可能性も危惧されます。
この様に様々な弊害が予想されるため、診療報酬の請求という本来の目的以外に、民間企業がレセプト・健診等の個人情報を利用する事を認めるべきではありません。   

2010年

6月

01日

民主党の医療政策 第10回

2010年6月1日

今回も、レセプトオンライン請求の「完全義務化」に関わる問題について述べます。

 第4の問題は、「社会保障個人会計」が最終的な目的である事です。
自民・公明政府は、オンライン請求義務化と並行して、「国民の利便性向上」「保険者・サービス提供者等の事務効率化」を謳(うた)い文句に「社会保障カード」の2011年導入を目指していました。これは医療・介護・年金の3つの保険証を1枚のカードに集約し、インターネットを介して国民自(みずか)らがいつでも自身の医療・健康情報、年金記録、保険料額や納付状況を閲覧できるシステムの事です。一見、素晴らしいシステムのようですが、これによって、医療・健康管理を国民に「自己責任」として押しつけ、公的医療給付範囲を縮小しようという意図があります。民主党政府は、さらに、この「社会保障カード」を住民基本台帳と統合する事も狙っています。これにより、国民を背番号管理し、社会保障給付を一本化し個人毎に総額管理する「社会保障個人会計」を導入するのが、最終的な目的です。医療・介護・年金を一括管理し、全ての給付を削減しようという訳です。
 「社会保障個人会計」が構築されると、どのような世の中になるのでしょうか?

その1つが「禿鷹(はげたか)会計システム」です。すなわち、個人の死亡時に財産が余っていれば、「保障が手厚(てあつ)すぎた」と判断され、死後精算に より、遺産・相続財産から保険金が追加徴収されてしまうのです。2つ目は、単年度精算が可能となる事です。医療費や介護費を使い過ぎた翌年には保険料が値 上げされたり、使い過ぎた人の終末期医療は給付を抑制されたりする限度額管理(年度間繰り延べ型)が行われます。死を目前にした患者が「あなたは今まで医 療費を使い過ぎたので、上限を超えた分は自己負担して下さい」と言われるのです。さらに、医療費を使い過ぎた人には年金支給額や介護保険の利用限度額を減 らす限度額管理(制度間付け替え型)も構想されています。こうなれば、社会保障制度その物が崩壊してしまいます。
 
 第5の問題は、オンライン請求義務化には多くの憲法違反があるという事です。
まず、憲法22条及び25条違反です。憲法22条は、「何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。」と定めています。ま た、憲法25条は「すべての国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する(生存権)。」と定めています。職業選択の自由とは、自己の従事する 職業を決定する自由を意味しますが、自己の選択した職業を遂行する自由(営業の自由)も憲法22条により保障されると解するのが通説です。さらに、医師が 国民に医療サービスを提供する事により、疾病を治療し、健康の維持増進に寄与し、国民の生存権の保障にもつながるものであり、一般的な営業の自由に留まら ない重要性があります。長年地域医療に従事してきた医師は、自己の選択した職業を遂行すると同時に、患者の生存権の保障にも貢献してきた訳です。
医師は医療行為を行い、その対価として診療報酬を得ますが、それは一個人として生活していくために不可欠であるのみならず、病院・診療所の経営にとっても 不可欠です。オンライン請求が義務化されれば、それに対応できない医師は診療報酬を得る事ができず、業務の継続が不可能となります。これは、営業の自由の 侵害のみならず、患者の生存権の侵害にも関わる深刻な問題であり、重大な憲法違反です。
 また、オンライン請求義務化は憲法41条違反でもあります。憲法41条は「法律による行政」の原則を規定した法律で、「国会は国権の最高機関であって、 国の唯一の立法機関である」と定めています。唯一の立法機関とは、国の立法権は国会が独占する事(国会中心立法の原則)、及び国の立法は国会の手続きにお いてのみ完成し他の国家機関の関与を許さない事(国会単独立法の原則)を意味します。また、国家行政組織法12条には「各省大臣は法律を施行するため、各 々の機関の命令として省令を発する事ができる」と定められています。つまり、省令はあくまでも法律を実行するために省庁が発する命令にすぎないのです。保 険医療機関の診療報酬請求方法をオンライン請求に限定し、他の請求方法を認めない厚生労働省令第111号は、国民の権利(診療報酬請求権)に新たな制限・ 負担を設ける制度の新設に他なりません。
このように国民の権利に直接影響を与える制限を、国会での法律制定に寄らず、省令により直接実現しようとする横暴は、憲法41条違反であり無効です。
 
 以上のように、レセプトのオンライン請求「完全義務化」は多くの問題・違憲性を抱えており、民主党が公約する「原則化」への変更では不十分であり、完全に撤廃するべきなのです。

2010年

7月

01日

民主党の医療政策 第11回

2010年7月1日

今回も、レセプトオンライン請求の「完全義務化」に関わる問題について述べます。

 昨年1月、神奈川県保険医協会、大阪府保険医協会の医師達が相次いで、レセプトオンライン請求義務化の撤回を求める訴訟を起こしました。
そして、民主党政権の誕生に伴い、厚生労働省は同年11月、レセプトオンライン請求義務化を見直す改正省令第151号を公布しました。改正の骨子は以下の通りです。
①診療報酬の請求方法は、本年(平成22年)7月診療分から、電子レセプトによる請求を原則とする(オンライン請求のほか、光ディスクなどの電子媒体による請求も可能)。

②現在、手書きでレセプト請求を行っている医療機関については、オンラインまたは電子媒体による請求への移行を努力目標とする(義務とはしない)。
③医師が高齢者(65歳以上)の診療所については、オンラインまたは電子媒体による請求への移行を免除する(今まで通り紙レセプトでも良い)。
④紙レセプトしか出せない機器を使用している医療機関の場合、最長2014年度末まで、オンラインまたは電子媒体への移行を猶予する。
 この改正省令により、レセプトのオンライン請求「完全義務化」は軌道修正されましたが、これで問題が解決した訳ではありません。
少なくとも、次の3つの問題が残っています。
①2014年度末までの猶予はあるものの、2015年4月以降は、電子レセプト(オンライン請求または電子媒体による請求)が原則化されることに変わりありません。
これにより、レセプトデータによる「ナショナルデータベース」構築が可能となります。
即ち、国民を背番号管理し、社会保障給付を一本化する事により、個人毎に総額管理する「社会保障個人会計」の導入に道が開かれる危険が大きいのです。
これについては、先月号の「院長から一言」に詳述しました。
②オンラインや電子媒体では、紙レセプトよりも大量かつ長期に渡る(半永久的な)個人情報漏洩が懸念されます。
これについては、「院長から一言(平成22年4月1日)」で述べました。
③憲法41条違反。
先月号の「院長から一言」で述べたように、憲法41条は国会を唯一の立法機関と定めています。しかるに、保険医療機関の診療報酬請求方法をオンライン請求 に限定し、他の請求方法を認めない厚生労働省令第111号は、国民の権利(診療報酬請求権)に新たな制限・負担を設ける制度の新設に他なりません。
改正省令第151号でも、2015年4月以降は高齢医師以外には紙レセプトを認めないのですから、国民の権利を侵している事に変わりありません。
このように国民の権利に直接影響を与える制限を、国会での法律制定に寄らず、省令により直接実現しようとする横暴は、憲法41条違反であり無効なのです。
 
 以上のように、レセプトのオンライン請求「完全義務化」は多くの問題・違憲性を抱えています。従って、民主党が公約する「原則化」への変更では不十分で あり、完全に撤廃するべきなのです。つまり、レセプトの請求様式は、①紙に手書き、②紙に印刷、③電子媒体、④オンライン、のいずれでも構わないとする、 自由選択制にすべきなのです。ちなみに、当院では先月までは紙レセプトを提出していましたが、今月からフロッピーディスクを提出します。この方がまだオン ラインよりは情報漏洩の危険性が低いと考えるからです。 
 
 4月から4回に渡って、レセプトのオンライン請求「完全義務化」の問題について、私の意見を述べました。医療関係者だけの問題ではなく、国民全員の将来に関わる大問題であるという事を多くの方に認識して頂ければ幸いです。

2010年

8月

01日

民主党の医療政策 第12回

2010年8月1日

 

 先月の参議院選挙で民主党は大敗しましたが、政権を明け渡した訳ではありません。
民主党政権は継続しており、当欄でも来月まで民主党の医療政策についての検証を続けます。

8.「包括払い」制度の推進
 民主党は次のように公約しています。
①国内どこに住んでいても、医学的根拠に基づく医療(EBM(evidence based medicine))が受けられるよう、急性期病院において、より一層の「包括払い」制度(特定の疾患に定額の報酬が支払われる制度)の導入を推進する。
②後期高齢者医療制度でも「後期高齢者診療料」という「包括払いのような」制度が導入されているが、医療現場の理解を得られておらず、必要な検査ができなくなる恐れがあるので廃止する。

 診療報酬の算定方法には「出来高払い」と「包括(定額)払い」の2種類があります。
「出来高払い」とは細分化された一つ一つの診療行為ごとに報酬を設定し、それらを合算する算定方法です。検査、診断、治療等の診療行為には専門的な知識や技術を要するのは無論、危険を伴う事も多く、結果責任は全面的に医師が負わなくてはなりません。
従って、一つ一つの診療行為毎に報酬が設定され、経済的な裏打ちを持って適切に評価される「出来高払い」制度は、高度な専門性と責任を要求される医療には当然の報酬制度であると言えます。
 一方、「包括払い」とは、例えばいくつかの診療行為(投薬・検査・注射等)をまとめて定額の報酬を設定したり、特定の疾患にあらかじめ定額の報酬を設定 する算定方法です。定額の報酬の中により多くの診療行為を「マルメ」込んだり、定額の報酬額その物を減額すれば、簡単に診療報酬を安く押さえる事が可能で す。そのため、社会保障費削減政策を執った旧自公政府は、本来「出来高払い」であるべき診療報酬に、見境(みさかい)無くドンドンと「包括払い」を取り入 れてきました。その結果、様々な弊害が生じています。
例えば、必要な医療を提供しようにも、設定されている報酬が低いため採算割れを起こすため、投薬を断念したり、必要な検査が施行できない事態となっています。
そのため、疾病の悪化や誤診を招く危険が高まります。結局、そのツケは患者に回り、不幸な転帰をたどる事になります。「病院経営にもコスト意識が必要であ り、「包括払い」の報酬でも、無駄を省く組織努力によって必要な検査・治療は可能である」との意見もありますが、収支を改善させるためには支出の大部分を 占める検査・治療の経費を削らざるを得ず、粗診粗療を余儀なくされています。何と悲しい事でしょう。
「福祉大国日本」の名がすたります。
 民主党の公約①は、この不条理な「包括払い」制度を、よりによって急性期病院に導入するというのです。急性期医療では、患者に必要な医療を迅速に施す必要があります。
目の前の救急患者を治療しなければならない時に、コスト計算をしたり、採算を心配している暇はありません。急性期病院にこそ、「包括払い」ではなく「出来 高払い」が最も必要なのです。民主党の主張は明らかな間違いです。しかも、医学的根拠に基づく医療(EBM)と「包括払い」との間には何の関連もありませ ん。EBMが受けられるようにするために「包括払い」を導入する、という文には全く脈絡がないのです。民主党は、昨今の流行語とも言える「EBM」を無理 やり使ってみたかっただけとしか思えません。
 公約②で、民主党は後期高齢者医療制度に反対を表明しており、これ自体は「院長から一言(平成20年9月19日、平成22年2月1日)」で述べたように正しい主張です。
しかしながら、この中でやり玉に挙げている「後期高齢者診療料」は、月6,000円という低額で、何度でも、どんな病気も、1人の医師に治療させる、という最も許し難い「包括払い」制度です。「包括払いのような」制度ではなく、最悪の「包括払い」なのです。

 公約②で最悪の「包括払い」を廃止すると言っておきながら、公約①で「包括払い」を導入すると言うのは、明らかに矛盾しています。民主党の医療政策は、 現状の医療制度を正しく理解しないまま、付け焼き刃的に慌(あわ)ててこしらえたのではないかと疑わざるを得ません。
 
 医療政策だけではありません。民主党は「普天間基地は最低でも県外へ移転する」、「高速道路は原則無料化する」等の公約を完全に破棄してしまいました。 さらに「4年間は消費税を増税しない」と公約しておきながら、鳩山首相から菅首相に交代した途端に「消費税10%構想」をぶち上げ、参議院選挙が近付くと 今度は「議論を呼びかけただけだ」と後退してしまいました。そして、大敗した選挙後には、「唐突に消費税増税を持ち出したのが敗因」と泣き言を述べる始末 です。このように、民主党は選挙目当てに場当たり的な政策を乱発し、その挙げ句、実行不可能に陥り、右往左往する醜態をさらしています。
 私は医療の事しか判りませんが、民主党は、少なくとも医療政策に関する限り、はなはだ勉強不足です。日本医師会等の医療現場で働く人達の意見に真摯に耳を傾け、大いに学習して、首尾一貫した正しい医療政策を行ってもらいたいものです。

2010年

9月

01日

民主党の医療政策 第13回

2010年9月1日

9.療養病床38万床を維持
 民主党は、次のように公約しています。
①自公政権の「療養病床削減計画」を凍結する。
②総枠として、療養病床38万床を維持する。
 この公約を理解するために、まず、療養病床について説明しましょう。
療養病床とは、一言で言えば、昔の「老人病院」です。1992年以降、高齢者の長期入院施設として、「老人病院」が「療養型病床群」という名称に代わり、さらに2000年の介護保険制度開始以降、医療保険から費用が支払われる「医療型療養病床」と、介護保険から費用が支払われる「介護型療養病床」に分けられました。医療費削減を目論(もくろ)む旧政府は、「病床(ベッド)数と入院日数は医療費と強い相関関係がある」と考え、療養病床削減により、病床数と平均入院日数の両方を一気に削減し、医療費削減につなげようとしました。

 2006年、小泉純一郎首相は医療制度改革関連法を強権的に成立させると同時に、「療養病床削減計画」を打ち出しました。これは、当時38万床あった療 養病床のうち、「介護型療養病床」(13万床)を2012年までに全廃し、「医療型療養病床」(25万床)も10万床削減して15万床にし、さらにその診 療報酬も引き下げるという、とんでもない計画です。合計23万人もの患者を追い出し、介護施設への入所、あるいは家庭での介護に委(ゆだ)ねようという魂 胆です。
 介護型療養病床が全廃されるとなると、介護型療養病床を運営している中小病院は、老人保健施設やグループホームなどの介護施設に転換するか、さもなけれ ば廃院せざるを得ません。介護施設に転換しても、介護報酬は療養病床よりも低く、経営悪化に苦しむ事になります。医療型療養病床を運営する中小病院も、 25万床のうち10万床も削減されてしまうのですから、頑張って存続する15万床の中に入るか、介護施設に転換して低い介護報酬に甘んじるか、さもなけれ ば廃院するか、苦しい選択を迫られます。
 要するに、「療養病床削減計画」とは「病院潰(つぶ)し」計画なのです。国民(高齢者)の医療に対する国家の責任を放棄し、地方(介護保険の保険者であ る市町村)や個人(家庭)に転嫁しよういう計画です。厚生労働省は「入院患者が追い出される訳ではない。削減される療養病床は介護施設に転換してもらうだ けで、廃止ではない」などと説明しています。厚生労働省の「廃止でなく転換だ」という強弁は、まるで戦時中の大本営発表の「撤退でなく転戦」「敗戦でなく 終戦」という表現と全く同質です。
私は、言葉を弄(ろう)して国民を欺(あざむ)こうとする、役人の小賢(こざか)しさに腹が立ちます。
                                                              次号へ続く

2010年

9月

30日

民主党の医療政策 第14回

2010年10月1日

今回も、民主党の療養病床に対する政策について述べます。 
 
民主党は、次のように公約しています。
①自公政権の「療養病床削減計画」を凍結する。
②総枠として、療養病床38万床を維持する。

 そもそも、介護保険制度創設の本来の主旨は、「在宅での介護は困難なため、社会全体で介護を支える事」です。「療養病床削減計画」は完全にこの主旨に反しています。
追い出された入院患者が介護施設に入所できたとしても、光熱費・居住費・食費などの自己負担値上げに耐えられず、退所せざるを得ない人が増加しています。
施設を退所した患者は、最後の受け皿となる家庭へ仕方なく戻る他ありません。
ところが、現状では介護力の無い高齢世帯が多く、介護放棄や虐待が頻発し、患者は難民化しています。
これでは、介護保険の主旨と正反対の事態です。
ですから、民主党の「療養病床削減計画」凍結政策は正論です。

 ①で療養病床を削減しないと宣言したのですから、②で療養病床38万床を維持すると言っているのは①と整合し、当然のように見えます。
ただし、「総枠として」という但し書きが気になります。
民主党は②に関連して、「現在の療養病床は居住施設への転換を図る」「亜急性期病床から療養病床への転換を図る」「療養病床は医療を必要とする患者の入院施設であるゆえ、食事・居住を医療の一貫として捉え、食事・居住費を含んだ包括払いとし、プラスαの部分を選定療養とする」と宣言しています。
 この宣言を分かり易く言い替えれば、次のようになります。
「現在の療養病床はすべて介護施設に転換し、そこに入院し続ける患者には医療保険を給付する事は止めて介護保険で面倒をみる。また、急性期を過ぎてなお入院を要する患者は『新しい療養病床』に転院させる。『新しい療養病床』では、決められた金額の範囲で食費・光熱費・家賃と共に医療費を賄(まかな)わなくてはならない。決められた範囲を超える金額の医療を受けたければ、実費を支払わなくてはならない。」
 民主党は、表面上は療養病床を維持すると言っておきながら、実質的には、中小病院から介護施設への転換を促進し、それができない病院は潰して介護難民を増やし、慢性期入院患者には定額の医療しか施さず、質の高い医療を受けたければ実費を払わさせるという、「病院潰し」「年寄りいじめ」の政策を行おうとしているのです。
表面的には療養病床削減計画を凍結すると言っておきながら、実質的には療養病床削減を継続しようとしているのです。

 国民(高齢者)の医療に対する国家の責任を放棄するという点で、民主党は旧自公政権と何ら変わりません。
民主党は旧自公政権の高齢者切り捨て政策を継続しているのです。
今後も、慢性期入院患者に対する民主党の医療政策を慎重に注視する必要があります。

 今回で、計14回に渡った、民主党の医療政策に関する考察を終了します。

インフルエンザ予防接種の予診票は当院受付にてお配りしている他、本サイトからもダウンロードできます。予め記入後お持ち下さい。

  ただし、「65歳以上の藤沢市民」は、当院にて専用の予診票に記入して頂きますので、ダウンロードは不要です。

お知らせ

令和6年4月以降、発熱など風邪症状がある方も、電話連絡等は不要となりました。

令和6年3月14日(木)、21日(木)、28日(木)の各木曜日休診します。

4月以降も、毎週木曜日休診します。

3月7日(木)臨時休診します。

2月28日(水)から3月5日(火)まで臨時休診します。3月6日(水)から診療再開します。

令和6年4月より、毎週木曜日、休診します。

1月25日(木)は通常通り診療します。

2月1日(木)は急用のため、休診いたします。

急用のため、1月18日(木)休診いたします。

 

急用のため、1月11日(木)休診いたします。

 

令和5年12月29日より翌1月3日まで休診します。ただし、1月2日は藤沢市休日当番医のため、午前9時から午後5時まで、急病・外傷患者さんの診療を行います。

8/11(金)から8/17(木)まで夏期休診させて頂きます。

新型コロナワクチンの3回目接種を来年1月18日から開始します。

市から接種券が届いたら、電話にて予約して下さい。藤沢市以外の方も予約できます。

TEL 0466-31-0840