2010年7月1日
今回も、レセプトオンライン請求の「完全義務化」に関わる問題について述べます。
昨年1月、神奈川県保険医協会、大阪府保険医協会の医師達が相次いで、レセプトオンライン請求義務化の撤回を求める訴訟を起こしました。
そして、民主党政権の誕生に伴い、厚生労働省は同年11月、レセプトオンライン請求義務化を見直す改正省令第151号を公布しました。改正の骨子は以下の通りです。
①診療報酬の請求方法は、本年(平成22年)7月診療分から、電子レセプトによる請求を原則とする(オンライン請求のほか、光ディスクなどの電子媒体による請求も可能)。
②現在、手書きでレセプト請求を行っている医療機関については、オンラインまたは電子媒体による請求への移行を努力目標とする(義務とはしない)。
③医師が高齢者(65歳以上)の診療所については、オンラインまたは電子媒体による請求への移行を免除する(今まで通り紙レセプトでも良い)。
④紙レセプトしか出せない機器を使用している医療機関の場合、最長2014年度末まで、オンラインまたは電子媒体への移行を猶予する。
この改正省令により、レセプトのオンライン請求「完全義務化」は軌道修正されましたが、これで問題が解決した訳ではありません。
少なくとも、次の3つの問題が残っています。
①2014年度末までの猶予はあるものの、2015年4月以降は、電子レセプト(オンライン請求または電子媒体による請求)が原則化されることに変わりありません。
これにより、レセプトデータによる「ナショナルデータベース」構築が可能となります。
即ち、国民を背番号管理し、社会保障給付を一本化する事により、個人毎に総額管理する「社会保障個人会計」の導入に道が開かれる危険が大きいのです。
これについては、先月号の「院長から一言」に詳述しました。
②オンラインや電子媒体では、紙レセプトよりも大量かつ長期に渡る(半永久的な)個人情報漏洩が懸念されます。
これについては、「院長から一言(平成22年4月1日)」で述べました。
③憲法41条違反。
先月号の「院長から一言」で述べたように、憲法41条は国会を唯一の立法機関と定めています。しかるに、保険医療機関の診療報酬請求方法をオンライン請求 に限定し、他の請求方法を認めない厚生労働省令第111号は、国民の権利(診療報酬請求権)に新たな制限・負担を設ける制度の新設に他なりません。
改正省令第151号でも、2015年4月以降は高齢医師以外には紙レセプトを認めないのですから、国民の権利を侵している事に変わりありません。
このように国民の権利に直接影響を与える制限を、国会での法律制定に寄らず、省令により直接実現しようとする横暴は、憲法41条違反であり無効なのです。
以上のように、レセプトのオンライン請求「完全義務化」は多くの問題・違憲性を抱えています。従って、民主党が公約する「原則化」への変更では不十分で あり、完全に撤廃するべきなのです。つまり、レセプトの請求様式は、①紙に手書き、②紙に印刷、③電子媒体、④オンライン、のいずれでも構わないとする、
自由選択制にすべきなのです。ちなみに、当院では先月までは紙レセプトを提出していましたが、今月からフロッピーディスクを提出します。この方がまだオン ラインよりは情報漏洩の危険性が低いと考えるからです。
4月から4回に渡って、レセプトのオンライン請求「完全義務化」の問題について、私の意見を述べました。医療関係者だけの問題ではなく、国民全員の将来に関わる大問題であるという事を多くの方に認識して頂ければ幸いです。