2010年3月1日
6.後期高齢者医療制度の廃止
民主党は次のように公約しています。
①後期高齢者医療制度を廃止する。
廃止に伴う国民健康保険の財政負担増は国が支援する。
②国民健康保険と被用者保険(社会保険)を統合し、医療保険制度を一元化する。
①については、大賛成です。
後期高齢者医療制度は、「院長から一言(平成20年9月19日)」で既に述べたように、欠陥だらけの制度ですので、廃止して従来の老人保健制度に戻すべきです。
後期高齢者医療制度の理念は「75歳という年齢で命の線引き」をする事です。そもそも、75歳以上の医療だけを別建てにする根拠が存在しません。医療の 基本的な内容は75歳を過ぎたからと言って大きく変わるものではなく、74歳以下に対する医療と連続しているからです。では、何のために、こんな理不尽な 高齢者差別を行ったのでしょうか?
その目的は「高齢者医療費の抑制」です。簡単に説明すると、75歳以上の高齢者(及び65歳以上の障害者)をひとくくりにして他の世代から分離し、独立し た被保険者集団として孤立させ、この集団の医療費総額が上昇すれば、その集団を構成する高齢者全員の保険料を引き上げるという制度なのです。現代医学の進
歩の恩恵を受けて、長生きする人が増え、高齢化は年々進みます。高齢化が進めば疾病も増加して医療費が増加するのは当然です。限られた集団の中でやり繰り し、増えた医療費を賄(まかな)うためには、集団の構成員が払う保険料を増やさざるを得ません。従って、後期高齢者が負担する保険料は上がり続けます。僅
(わず)かな年金で暮らしている多くの高齢者にとって、上がり続ける保険料を払い続ける事は不可能です。従って、高齢者医療費総額を抑制せざるを得なくな ります。
医療費総額を抑制するための手段として、2つの仕組みが導入されました。
1つは、診療報酬の削減です。例えば、1)入院が90日を越えると入院基本料を大幅に引き下げる、2)月6,000円という低額で何度でも、どんな病気も 1人の医師に治療させる「後期高齢者診療料」の新設などです。診療報酬が下がれば、当然、高齢者に給付される医療水準も下がり、高齢者の疾病はますます増 えるという悪循環に陥るのです。
2つめの医療費総額抑制手段は、保険料未納者に対する保険証の取り上げです。
上がり続ける保険料に悲鳴を上げた高齢者が保険料を滞納すると、保険証を取り上げられてしまい、医療機関を受診する際には全額自己負担しなければならないのです。
これにより、高齢者の受診は抑制され、結果的に高齢者医療費総額は抑制されます。
この保険証取り上げは、老人保健制度では許されていなかった禁じ手です。
これは「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を保障する日本国憲法25条に明らかに違反しています。
高齢者のみを一般の国民から切り離すこの制度は、国民連帯という国民皆保険の根本理念にも、疾病に罹患する確率が高い加入者と低い加入者をプールして、 リスクを社会的に分散するという社会保険の原則にも反しています。これに比べれば、高齢者を従来の医療保険制度に加入させたまま制度間の財政調整を行う従 来の老人保健制度の方が、理念上も社会保険の制度設計上も、はるかに優れています。
国際的に見ても、全国民を対象にした公的医療保険制度を有する国で、高齢者だけを別建てにした差別制度を作ってしまった国は日本以外にはありません。
人権を侵害する、憲法違反の後期高齢者医療制度がなぜ成立したのでしょうか?
後期高齢者医療制度を含む医療制度改革関連法は、2005年9月の郵政民営化総選挙の圧勝により、独裁的権力を獲得した小泉純一郎首相が、「小さな政府」路線と「巨大与党」のパワーにより、医療団体の抵抗を押し切って一気に、強権的に成立させたのです。
「時の勢い」で成立した欠陥だらけの後期高齢者医療制度は廃止するしかありません。そして、従来の老人保健制度に戻し、高齢者は元の国民健康保険または 被用者保険(社会保険)(社保)に再加入させます。なぜなら、高齢者の医療制度を一般制度から分離してしまうと、医療内容や保険料において高齢者差別が導 入される危険性が高いからです。
ただし、老人保健制度が最良の制度という訳ではありません。その理由は、国が老人保健制度に直接投入する負担が35%と低い事、及び、国民健康保険(国 保)財政への国庫支出金がこの25年間でほぼ半減している事です。国保財政を巡る経緯をたどると、国は支出を減らす一方で、保険者(市町村)に負担を求
め、財政規律のための執行については保険者に責任を負わせながら、財政が不均衡になると制裁を強化してきました。また、加入者には、保険料を払わなければ 医療を受けられないという「保険主義」を強めています。高齢者が元の国保に再加入しても、国の支出割合を元に戻さなければ、国保財政が立ち行かなくなりま
す。国保財政が立ち行かなくなれば老人保健制度自体も立ち行かなくなります。その意味で、民主党の「国民健康保険の財政負担増は国が支援する」のは正しい 方向です。
②についても、全面的に賛成です。
我が国の医療保険制度には、国民健康保険と被用者保険(組合健保と協会けんぽ)の2つがありますが、各々の制度間並びに制度内に負担の不公平があります。
これを是正するのは望ましい事ですが、同時に多大な困難を伴う事が予想されます。
それでも、医療保険制度の一元化が実現すれば、国民の生命・健康を公平に支える制度が確立し、国民皆保険制度がより強固になります。
ところが、民主党は政権交代後、態度を一変し、「4年間かけて」後期高齢者医療制度を廃止すると言い出しました。毎日4,000人の後期高齢者が発生し ているため、日増しに被害者が増える一方です。4年間も野放しにしてはいけません。こんな「姥捨て山」極悪(ごくあく)制度は一日も早く廃止するよう、世 論を高めなければなりません。