2009年12月1日
3.中医協(中央社会保険医療協議会)の改革
民主党は、中医協(中央社会保険医療協議会)の構成・運営の改革を行う、と公約しています。中医協とは厚生労働大臣の諮問機関で、診療報酬の価格を決定します。
健康保険組合連合会(健保連)など支払い側の7人と、日本医師会など診療側の7人、そして公益代表6人の計20人の委員で構成されています。
総選挙前の今年7月、当時の岡田克也民主党幹事長は「医師会は開業医中心だ。利害関係者が自分達の取り分を決める政府の制度は他にはない」と発言し、診療報酬改定は「最終的には国会で議論して決める」と表明しました。
私も、診療報酬の改定率を最終的に国会で議決する事に賛成です。
なぜなら、中医協が政府の医療費削減策の片棒を担ぐ危険を回避できるからです。
しかし、岡田氏の発言は誤解と偏見に満ちていたと言わざるを得ません。
岡田氏は次の2点を知らないか、あるいは無視していました。
①中医協の診療側委員には既に病院団体代表が2名加わっており、開業医に偏っていた訳ではありません。最近の診療報酬改定は、決して開業医が「自分達の取り分を決める」ものとはなっておらず、逆に病院に最大限配慮した改定が行われてきました。
②中医協は公開の場で議論し、議事録も全て公表されてきました。
さらに、診療報酬改定の影響を調査し(不十分な調査ですが)、その結果を次回改訂の際に考慮する(これもまた、不十分な考慮ですが)など、他の政府委員会よりも透明で公正な運営が行われてきました。
診療報酬改定は2年に1度行われ、その議決内容、影響調査の内容、次回改訂時の考慮程度のいずれもが、政府の社会保障費削減政策を大いに反映してきました。
2年毎に診療報酬は削減され、報酬の算定条件などの中身も大きく変更されるため、我々医療機関はその度に経営方針の見直しを迫られ、本業の診療に集中する事ができません。
しかも、年度末の3月中旬に改定内容が発表され、翌年度4月1日からの新制度開始まで僅(わず)か2週間で準備しなければならないのです。
改訂の頻度は5年に1度位にして、周知徹底(準備)期間も半年位は頂きたいものです。
我々開業医は、これまでの中医協の運営・決定には大いに不満を感じ、憤りを覚えています。けれども、不満ではありますが、決して、不公平な運営だとは思っていません。「開業医が自分達の取り分を決めて」きた訳ではないのです。
民主党はこれまでの中医協の運営を誤解しているとしか思えません。
この様な状況下、この10月1日に、支払い側委員7人中3人、診療側委員7人中6人が任期満了を迎えました。
長妻昭・厚生労働大臣は10月26日、注目された新委員を発表しました。
診療側委員の任期満了者6人全員が規約上再選可能で、この内3人は日本医師会の役員でしたが、3人とも再選されず、中医協から日本医師会が排除されてしまったのです。
この中医協人事に関して、仙石由人行政刷新担当大臣は「日本の医療界を覆う権威とパワーが、これまでの延長線上で日本の医療を再建できるとは思わない。一旦白紙に戻す必要がある」との見解を述べました。
これは、「開業医を多く抱える日本医師会が自らに有利な価格設定を行ってきた」という判断に基づく見解ですが、この判断は上述した通り、大いなる誤解・偏 見に満ちています。さらに付言すれば、日本医師会は計16万5,000人の医師から成っていますが、勤務医と病院・診療所の開設者はほぼ半数ずつで、決し て開業医中心でもありません。
また、中医協の設置を定めた社会保険医療協議会法は「中医協の診療側委員は、医師、歯科医師及び薬剤師を代表する者とする」と定めています。
さらに、「中医協の在り方に関する有識者会議」の報告書には、「厚生労働大臣が委員を一方的に任命するのではなく、それぞれを代表するに相応(ふさわ)しい者を関係団体が推薦し、これに基づいて厚生労働大臣が任命すべきである」と記載されています。
日本医師会は、地域医療を担っている47都道府県医師会、891郡市区医師会、60の大学医師会などとの密接な連携のもとに日本の医療を支えてきた訳ですから、まさしく、医師を代表するのに最も相応(ふさわ)しい団体です。
にもかかわらず、民主党が上記法律や報告書を無視した一方的人事を行った事は、極めて独断的であり、かつての小泉総理の専制君主的な政治手法を想起します。
私は、今後の中医協における診療報酬改定議論において、病院と診療所の間で財源を奪い合うような対立構造が生じるのではないかと危惧します。
民主党政府の方針は、「診療所の配分を減じて病院の配分を増額する」という事であり、この方針を具現化するために、中医協から日本医師会を排除し、診療 側委員の大部分を大学や病院関係者の代表にしてしまいました。しかしながら、医療は公的病院や大学だけで行えるものではなく、民間の慢性期病院や診療所の 役割も非常に重要です。
これまで、日本は充実した医療を低コストで提供してきました。その中心は民間の医療機関です。現在、大流行している新型インフルエンザを例にとっても、他国に比較して死亡例が極めて少ないのは、第一線の診療所が質の高い医療を提供しているからです。
病院の疲弊は、決して医師会が略奪した結果ではなく、旧自民党政権下で展開された医療費削減政策の結果です。医療費を下げた結果生じた問題は、医療費を 上げて解決しなければならないのは明白です。片方を削って得た財源でもう片方の資金を賄う手法は、政府から見れば帳尻があったとしても、医療を受ける国民
の側から見れば、新たな機能不全が生じる事は必定です。異なったグループ間で均等化を図っただけでは問題は解決しないのです。医療費全体を底上げしないと 日本の医療は改善されないのです。
民主党政権がこんな簡単な理屈を理解できないで、愚策を講ずる事がないように、祈ります。