2010年5月1日
今回も、レセプトオンライン請求の「完全義務化」に関わる問題について述べます。
第2の問題は、さらに重大です。それは、国がレセプト情報を利用して医療費削減と混合診療解禁を狙っているという事です。オンライン請求先進国の韓国では、レセプトデータから診療科目別・疾患別の平均報酬を割り出しています。医療機関から請求があると、最初にコンピューターで自動審査し、請求額が平均報酬より高いと厳しく減額します。そのため、韓国の医療機関は、平均報酬より高くならないように治療内容を制限せざるを得ません。
そして、審査で認められない医療については、患者が全額自己負担させられています。
政府が開催している規制改革会議は、オンラインで集めたレセプトデータを元に、疾病(しっぺい)毎に健康保険で受けられる医療範囲を「標準的医療」とし て狭くし、その範囲から外れる医療は全額自己負担にする事を求めています。すなわち、混合診療解禁のためにレセプトデータを活用しようとしているのです。
これこそが、小泉「構造改革」内閣のもとで、民間企業経営者が中心メンバーである規制改革会議が強引に推し進めたオンライン請求の真の狙いです。「院長か らの一言(平成21年7月1日、及び8月1日)」で述べたように、混合診療解禁の目的は、健康保険による診療を制限して、患者の自己負担を増やし、民間保
険会社の市場を拡大する事です。そうなれば、保険会社の儲(もう)けは増えますが、国民は健康保険で必要十分な医療が受けられなくなります。
第3の問題は、レセプトデータが民間企業の営利目的に利用される事です。
政府は、全国のレセプトデータに、特定健診・後期高齢者健診・特定保健指導で集めたデータを加えて突き合わせ、分析する目的で、「医療・健康情報ナショナ ルデータベース(仮称)」を構築中です。オンライン請求が義務化されれば、このデータベースの情報量・精度は飛躍的に向上し、医療費動向や疫学的状況の把
握が容易となり、医療費抑制や管理医療の強化が行いやすくなります。規制改革会議は、この診療情報・健診情報の民間活用を求めています。その目的は、民間 企業の健康産業への参入促進です。例えば、「あなたにピッタリの薬」「あなたのためのフィットネスクラブ」などというダイレクトメールを送りつける事が可
能になります。また、保険会社が個人の過去の病気を調べ上げ、告知義務違反を口実に保険金を払わない事態も起こり得ます。さらに、過去・現在の病気を理由 に就職不採用や解雇など、個人に不利益をもたらす可能性も危惧されます。
この様に様々な弊害が予想されるため、診療報酬の請求という本来の目的以外に、民間企業がレセプト・健診等の個人情報を利用する事を認めるべきではありません。