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Exploring the History of Medicine, Part 51: Florence, Part 31
令和7年3月1日
サン・ジョヴァンニ洗礼堂 Battistero di San Giovanni 続き
洗礼者聖ヨハネ Saint John the Baptist に関連して、医療者が忘れてならないのは、セント・ジョンズ・ワート Saint John's Wort (「聖ヨハネの草」セイヨウオトギリソウ)という薬草です。
学名はHypericum perforatum(ヒペリクム・ペルフォラートゥム)。
古代ギリシャでこの花が「悪魔よけの像」の上に置かれていたことから、学名が「像icon」の「上hyper」を意味するラテン語ヒペリクムHypericumになったそうです。
その名のとおり、災いから身を守るための儀式で使用され、古くから「魔よけ」の植物として親しまれてきました。
ヨーロッパ原産ですが、後にアメリカなどへ伝播(でんぱ)し、現在では日本の一部地域でも野生化したセント・ジョンズ・ワートを見ることができます。
聖ヨハネの誕生日(聖ヨハネの日、6月24日)頃に黄色い花が咲き、伝統的にこの日に収穫されているため、聖ヨハネの名が付けられました。
ちなみに、日本の北海道では、7月中頃にかわいらしい黄色い花を咲かせます。
花びらをこすると赤い液体が出てくるので、洗礼者ヨハネの血からこの草が芽生えたと言い伝えられています。
セント・ジョンズ・ワートは古代ギリシャ以来、「悪魔を追い払うハーブ」と呼ばれ、儀式に用いられただけではなく、外用(塗布)して切り傷やヤケドに、内服してうつ病の治療薬として、用いられてきました。
アメリカ大陸の原住民族(アメリカ・インディアン)も人工妊娠中絶薬、抗炎症薬、消毒薬として使用していました。
また、赤や黄色の色素を作るためにも用いられています。
我が国においても、最近、セント・ジョンズ・ワートを含むサプリメント(錠剤、カプセル)やティーバッグ(ハーブ)が薬局やインターネット通販で売られています。
しかし、この草に含まれるヒペリシンやヒペルフォリンという物質を摂取することにより、体内で、ある種の薬物代謝酵素が誘導されます。
そのため、薬物の代謝(分解)が促進され、その血中濃度が低下するため、薬効が減少します。
また、セント・ジョンズ・ワートの摂取を急に中止すると、薬物分解促進作用がなくなるため、薬物の血中濃度が上昇し、副作用を招く危険もあります。
セント・ジョンズ・ワートにより影響を受ける薬物は以下の通りです。
これらの薬物を服用している方は、 セント・ジョンズ・ワートを摂取しないで下さい。
鉄剤
オメプラゾール(酸分泌抑制薬)
リバロキサバン、ワルファリン(血液凝固阻害薬)
フルボキサミン、パロキセチン、セルトラリン(抗うつ薬)
ジゴキシン、ジギトキシン、メチルジゴキシン(強心薬)
アミオダロン、キニジン、ジソピラミド、プロパフェノン(抗不整脈薬)
テオフィリン、アミノフィリン(気管支拡張薬)
フェニトイン、カルバマゼピン、フェノバルビタール(抗てんかん薬)
エストラジオール(卵胞ホルモン薬)
ボリコナゾール(抗真菌薬)
シクロスポリン、タクロリムス、エベロリムス(免疫抑制薬)
ゲフィチニブ、イマチニブ(抗悪性腫瘍薬)
インジナビル(エイズ治療薬)