欺瞞に満ちた「地域包括ケアシステム」

2020年

1月

31日

欺瞞(ぎまん)に満ちた「地域包括ケアシステム」 第1回

令和2年2月1日

 

 今月から、地域包括ケアシステムについて、私の批判的な意見を述べます。 

 

 厚生労働省のホームページには「地域包括ケアシステムの実現へ向けて」という題で、次のように書かれています。

 

 日本では、諸外国に例をみないスピードで高齢化が進行しています。

65歳以上の人口は、現在3,000万人を超えており(国民の約4人に1人)、2042年の約3,900万人でピークを迎え、その後も、75歳以上の人口割合は増加し続けることが予想されています。

 このような状況の中、団塊の世代(昭和2224年の第一次ベビーブームに生まれた世代。戦後の高度経済成長、バブル景気を経験。約800万人)が75歳以上となる2025年(令和7年)以降は、国民の医療や介護の需要がさらに増加することが見込まれています。

 このため、厚生労働省においては、2025年(令和7年)をめどに、高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援の目的のもとで、可能な限り住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう、地域の包括的な支援・サービス提供体制(地域包括ケアシステム)の構築を推進しています。

  今後、認知症高齢者の増加が見込まれることから、認知症高齢者の地域での生活を支えるためにも、地域包括ケアシステムの構築が重要です。

 人口が横ばいで75歳以上人口が急増する大都市部、75歳以上人口の増加は緩やかだが人口は減少する町村部等、高齢化の進展状況には大きな地域差が生じています。

地域包括ケアシステムは、保険者である市町村や都道府県が、地域の自主性や主体性に基づき、地域の特性に応じて作り上げていくことが必要です。

 

  また、藤沢市のホームページには、「藤沢型地域包括ケアシステムの基本的な考え方」という題で、次のように書かれています。

 

 藤沢市は市民センター・公民館を中心とする13地区を行政区域としており、工業・商業の開発をはじめ、地区ごとに異なる発展をする中で、地域の特性を活かしながら、主体的な市民活動が行われています。

 そこで、藤沢市では、地域ごとの特性を活かし、幅広く対応できるよう、「藤沢型地域包括ケアシステム」として、めざす将来像と3つの基本理念を掲げ、その実現に向けた取組を進めています。

 

1.めざす将来像

 誰もが住み慣れた地域で、その人らしく安心して暮らし続けることができるまち。

2.3つの基本理念

1)全世代・全対象型地域包括ケア:

 子どもから高齢者、障がい者、生活困窮者等、すべての市民を対象とし、一人ひとりが地域社会の一員として包み支えあう、心豊かな暮らしを実現します。

2)地域の特性や課題・ニーズに応じたまちづくり:

 13地区ごとに、地域で培(つちか)った文化・歴史等の特性を活かしつつ、人口構造の変化や社会資源の状況に応じたまちづくりを進めます。

3)地域を拠点とした相談支援体制:

 支援を必要とする人が、身近な地域で確実に支援を受けることができる相談支援体制を確立します。

 

 「地域包括ケアシステム」とは、どうやら、遠大(えんだい)な構想に基づく、立派なシステムのように見えます。

しかし、厚生労働省や藤沢市のホームページを何度読み返しても、私の頭には、国や藤沢市が目指す「地域包括ケアシステム」の具体的な姿が浮かびません。

 

                                 次号に続く

2020年

2月

29日

欺瞞(ぎまん)に満ちた「地域包括ケアシステム」 第2回

令和2年3月1日

 

 地域包括ケアシステムは、今や「国策」とも言われるようになっています。

地域包括ケアシステムについての講演やシンポジウムは花盛りで、私も何回か聴講しました。

 登壇する講師たちは、みんな口を揃(そろ)えて、 地域包括ケアシステムの理念を「とうとう」と語ります。

 私を含め、聞いている人たちの多くは、こう思います。

「国は自治体と協力して、社会保障として、医療・介護・福祉サービスを包括的に提供してくれるのだ。

だから、私たちは、病気や障害があっても、尊厳ある人生を地域社会の中で送ることができるのだ。

そして、今住んでいる所で、自分らしい最期を迎えられるのだ」

 ところが、実際はそうではありません。

政府は、「地域包括ケアシステム」の名のもとに、病気の治療や介護への対応を個人に責任転嫁しようとしています。

そうすることにより、国や企業の医療・介護への支出を削減しようとしているのです。

そして、医療・介護を営利市場(ビジネスチャンス拡大の場)にしようと狙(ねら)っているのです。

 

 国が提唱する「地域包括ケアシステム」が、いかに欺瞞に満ちた政策であるかを分かり易く説明し、皆さんに理解して頂くことが本稿の目的です。

 

 201312月に成立した「持続可能な社会保障制度の確立を図るための改革の推進に関する法律」(略して「社会保障改革プログラム法」)で、地域包括ケアシステムが初めて法的に定義されました。

 

「地域の実情に応じて、高齢者が、可能な限り、住み慣れた地域でその有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、医療・介護・介護予防(要介護状態もしくは要支援状態となることの予防、または、要介護状態もしくは要支援状態の軽減もしくは悪化の防止)・住まい・自立した日常生活の支援が包括的に確保される体制」

 

 何と長くて、わかりにくい定義でしょう!

私は、この長い定義の4行目まで読んでいる間に、1行目に書いてある内容を忘れてしまい、何度読んでも理解できません。

 さらに、20146月に成立した「地域における医療および介護の総合的な確保の促進に関する法律」(略して「医療介護総合確保促進法」)は、

第一条(目的)で、「地域において効率的かつ質の高い医療提供体制を構築するとともに、地域包括ケアシステムを構築する」ことを明記しました。

また、第二条で、社会保障改革プログラム法で定めた地域包括ケアシステムの定義を再掲しました。

 

 こうして、20132014年の法改正により、「地域包括ケアシステム」が安倍政権における「医療と介護の一体改革」の中心的な柱となったのです。

 

                                                             次号に続く

 

2020年

3月

31日

欺瞞(ぎまん)に満ちた「地域包括ケアシステム」 第3回

令和2年4月1日

 

  2012年(平成24年)8月に社会保障制度改革推進法が成立しました。

この法律の趣旨にのっとり、政府が「社会保障制度改革国民会議」を作りました。

この会議が20138月に「報告書」を発表しました。

この報告書の提言に基づいて、前号で述べた「社会保障改革プログラム法」が成立したのです(201312月)。

 この「報告書」の中に「医療と介護の連携と地域包括ケアシステムというネットワークの構築」と題して、次のように書かれています。

 

「医療から介護へ」、「病院・施設から地域・在宅へ」という流れを本気で進めようとすれば、医療の見直しと介護の見直しは、文字どおり一体となって行わなければならない。高度急性期から在宅介護までの一連の流れにおいて、川上に位置する病床の機能分化という政策の展開は、退院患者の受入れ体制の整備という川下の政策と同時に行われるべきものであり、また、川下に位置する在宅ケアの普及という政策の展開は、急性増悪時に必須となる短期的な入院病床の確保という川上の政策と同時に行われるべきものである。

 

 長くて、回りくどく、分かりにくい文章です。

要約すると、こういうことです。

「川上」改革として、急性期病院のベッド数を削減して患者を早く退院させろ。

そして、その受け皿として「川下」に地域包括ケアシステムを構築せよ。

 患者を魚に例え、医療から介護への連携を川の流れに例えているのです。

 

「報告書」は「地域包括ケアシステム」「地域ごとの医療・介護・予防・生活支援・住まいの継続的で包括的なネットワーク」だと定義し、各地域でネットワーク作りを進めろと要求しています。

  そして、

「この地域包括ケアシステムは介護保険制度の枠内では完結しない。

介護ニーズと医療ニーズを併せ持つ高齢者を地域で確実に支えていくためには、訪問診療、訪問口腔ケア、訪問看護、訪問リハビリテーション、訪問薬剤指導などの在宅医療が、不可欠である」

と解説しています。

 

                               次号に続く

2020年

4月

29日

欺瞞(ぎまん)に満ちた「地域包括ケアシステム」 第4回

令和2年5月1日

  

 一般論を述べれば、高齢患者が急性期の入院治療を乗り切り、自宅に帰れば、訪問診療や訪問看護などの在宅医療が必要なのは当然です。

 しかし、それは「川上」での医療が十分に提供され、また、「川下」の体制が十分に整っていてこそ可能となるのです。

在宅での治療・生活が可能となるまで患者の状態が回復した上で、在宅の環境が整い、医療・介護・福祉サービスが保障されている必要があります。

 

  残念ながら、「川上」改革の本質は、急性期病院を中心にした大幅な「ベッド数削減」と「平均在院日数の短縮」であり、要するに、患者を「病院から追い出す」ことです。

  患者が自宅へ帰れるかどうかは、患者の病状だけではなく、他の様々な状況により制限されます。

すなわち、家族構成・就業状況に左右される介護力、家の間取りなどの居住構造・環境、地域の医療・介護・福祉サービスの体制、経済的負担能力などです。

 しかし、これら多くの個別条件をさておき、「地域包括ケアシステム」として、患者を長期入院させない方策を各地域で講じろと命じているのです。

 医療供給抑制の「川上」改革の受け皿としての「地域包括ケアシステム」には、医療・介護・福祉サービスを保障するという概念は欠落しており、国が責任を放棄し、地域に押し付けているだけの事なのです。

 そもそも、高齢者の医療・介護の場として在宅が最良であるという決めつけが、私には気にいりません。

本人や家族の様々な状況により規定されるはずの療養場所が、「在宅」のみに強制されるのが許せません。

  「川上」から押し出された患者の受け皿として「地域包括ケアシステム」を構築せよと、自治体や医療・介護従事者が国から命令され、アタフタしているのが現状です。

医療従事者の一人として、医療費抑制を目的とする体制作りに加担させられるのが、私にとって不快でなりません。

 

 従来から政府・財務省は「医療・介護にはこれ以上カネは出さない。自然増しか認めない」と公言してきました。

しかも、その自然増ですら「厳しく制限する」方針を貫いています。

 医療・介護の「総合確保法」、社会保障と税の「一体改革」などの言葉を聞くと、我々国民は、医療・介護がしっかり「確保」してもらえるんだ、社会保障は「改革」されて良い方に向かうんだ、と思ってしまいます。

現実は正反対です。

騙されてはいけません。

 

 川上の水量がたっぷりで、川幅も広く、流れも緩やかであれば、川下の川幅は広がり、豊かな水が穏やかに流れ、魚もゆったりと泳ぐ事ができるでしょう。

けれども、安倍政権の医療・介護改革は、狭く急流の川上から一気に大量の水を放出しようとしています。

河川整備が整っておらず、大量の水が急激に流れてくる川下では、多くの魚が行き場を失い右往左往してしまうだけです。

 

                                                             次号に続く

2020年

5月

31日

欺瞞(ぎまん)に満ちた「地域包括ケアシステム」 第5回

令和2年6月1日

  

 本稿第2回で述べたように、201312月に成立した「社会保障改革プログラム法」で、「地域包括ケアシステム」が初めて法的に定義されました。

これに先立つこと5年前の2008年から2年間にわたり、地域包括ケアシステムの基盤を考察するため、「地域包括ケア研究会」が政府の肝(きも)入りで開催されました。

  この研究会の報告書には、次のように書かれています。

 

 地域包括ケアシステムの提供に当たっては、それぞれの地域が持つ「自助・互助・共助・公助」の役割分担を踏まえた上で、自助を基本としながら互助・共助・公助の順で取り組んでいくことが必要である。

自助:自ら働いて、または自らの年金収入などにより、自らの生活を支える事。

       自分の健康は自分で維持する事。

互助:非制度的な相互扶助。例えば、近隣の助け合いやボランティアなど。

共助:社会保険のような制度化された相互扶助。

公助:自助・互助・共助では対応できない困窮などの状況に対し、所得や生  

   活水準・家庭状況などの受給要件を定めた上で、必要な生活保障を行う

   社会福祉など。

 

 そもそも、日本国憲法 第二十五条には

「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。

国は、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」

と書かれています。

憲法は、社会保障に対して責任を持つことを、国に義務付けているのです。

 ところが、「地域包括ケア研究会」の報告書を見てわかるように、政府は社会保障を「自助・互助・共助・公助」に無理やり分割した上で、「公助」を生活保護費支給に限るとしたのです。

そして、「自助」という名のもとに、国民に生活全般に及ぶ自己責任と経済的自己負担を押し付けたのです。

つまり、政府は社会保障の理念「普遍的な公的保障の拡大」を放棄した訳です。

  「自助・互助・共助・公助」などという、摩訶(まか)不思議な言葉を持ち出してきて、社会保障理念を勝手にすり替えることは到底許されません。

 社会保障は、個人の尊重を基本に、生存権と市民生活を保障する公共性を有します。

「自助・互助・共助・公助」なんぞ、社会保障理念にはなり得ません。    

 

                               次号に続く

 

2020年

6月

30日

欺瞞(ぎまん)に満ちた「地域包括ケアシステム」 第6回

令和2年7月1日

 

 本稿第3回で述べたように、政府肝(きも)入りの「社会保障制度改革国民会議」が20138月に「報告書」を発表しました。

 この中で構想された「川上」の改革が、入院医療費を抑制するための「入院患者追い出し」政策です。

そのために、「地域医療構想」という曖昧(あいまい)な名称の政策により、病院のベッド数削減と在院日数短縮が都道府県に義務付けられました。

 早期退院を促された患者は、医療・介護などの療養の必要性を負ったまま在宅に戻されてしまいます。

その受け皿作りが「川下」の改革であり、各自治体に「地域包括ケアシステム」を構築せよという訳です。

 しかしながら、地域における医療・介護体制は充実するどころか、保険料や窓口負担の引き上げにより荒廃する一方です。

その結果、孤独死、老老介護、認認介護による生活困難が増大し、医療・介護難民が増加しています。

 家族介護は減るどころか増えており、介護は家族が支えている、というのが日本の実態です。

これは、介護保険制度が家族介護を前提としているためです。

今後も増え続ける独居や老老介護に対応するには、介護保険制度の改善が是非とも必要なのです。

 ところが、20146月に成立した「医療介護総合確保促進法」に基づいて、20154月から介護保険制度「改革」が始まりました。

具体的な中身を見てみましょう。

 以前の介護保険は、

①要支援1(要支援12、要介護12345の7段階に分類された介護認定基準の中で最も軽い)からでも在宅サービスは使える。

②要介護1以上であれば特別養護老人ホームに入所申し込みをして待つ事ができる。

③介護サービス利用料は所得に関係なく1割負担。

④低所得者は介護保険施設の部屋代・食事代を一部免除される。

という4つの特徴がありました。

 

けれども、20154月の介護保険制度「改革」では、これらを全て悪く変える「4大改悪」が強行されたのです。

それは、以下の4つです。

①要支援12の利用者に行う訪問介護(ホームヘルパー)と通所介護(デイサービス)は保険から外し、市町村が基準・報酬・負担割合を独自に決める「総合事業」へ移管する。つまり、国から市町村への丸投げです。

②特別養護老人ホームへの入所は要介護345の認定を受けた人だけに限定する。つまり、要介護12の人を特別養護老人ホームから締め出す。

③年収160万円以上の利用者は利用料2割負担に値上げする。

④低所得者でも1,000万円以上の貯金があれば、介護保険施設の部屋代・食事代の援助を打ち切る。

 

                                                             次号に続く

2020年

7月

30日

欺瞞(ぎまん)に満ちた「地域包括ケアシステム」 第7回

令和2年8月1日

 

 前号で、20154月に介護保険制度の「4大改悪」が強行されたと述べました。

しかし、これは第1段階に過ぎません。

10年後の2025年に向けて、介護保険の改悪はどんどんエスカレートしていくのです。

 20156月閣議決定された「経済財政運営の基本方針(骨太の方針2015)」では、社会保障費の自然増を3年間で9,000億~15,000億円も削減する事を目安にしています。

さらに、2025年までに医療・介護費を計5兆円も抑制する方針まで掲(かか)げています。

 まだ、他にもあります。

「骨太の方針2015」は、要介護12(要支援12ではありません)の利用者に対するサービスを「見直し」、市町村事業への移行を検討する事を明記しているのです。

20154月の介護保険制度「4大改悪」で、要支援12の人に対するサービスを切り捨て、市町村に丸投げしたばかりなのにです。

「要支援12の人に対するサービス費は介護給付費の6%に過ぎず、これを切り捨てても支出抑制効果は知れている。それに比べ、要介護12の人達へのサービスを打ち切れば給付費を30%もカットできる。次のターゲットは要介護12だ」という訳です。

 

 201512月に、政府の経済財政諮問会議が決定した「経済・財政再生計画 工程表」には、今後の改悪案の内容が全て盛り込まれました。

2017年の通常国会で「法改正」し、2020年に完成という工程です。

 このまま安倍政権の経済財政改革という名の暴走が続けば、2020年の今年には、介護保険制度が次のような姿になってしまいます。

幸い、新型コロナウィルス騒動のお蔭で、まだ実現には至っていませんが・・・。

 

①介護保険サービスの大部分は要介護345の人しか受けられない。

要支援12、要介護12の人への介護は市町村に丸投げする。

②生活援助・福祉用具・住宅改修は、介護保険で給付せず、全額自己負担させ    る。

③全ての年齢において、自己負担を2割にする。

④マイナンバー制度により国民の預貯金を把握し、一定額以上の人には3割負担を 課す。

 

まさに「新4大改悪」というべきものです。

 

 医療保険制度においても、国は自己負担増、診療報酬削減の政策を執(と)り続けています。

在宅医療の分野でも診療報酬削減の嵐が吹きまくっています。

政府は今後、医師の役割を看護職員に、看護職員の役割を介護職員に、介護職員の役割を家族・住民同士の助け合いやボランティアに、シフトさせることを目論(もくろ)んでいます。

 国は退院患者の受け入れ体制を脆弱(ぜいじゃく)にしておいて、「川上」でのベッド数削減と入院日数の短縮を強引に進めています。

「川下」に流される患者は医療も介護も受けられません。 

「受け皿」であれば、必要な医療・介護を公的に保障する手立てを講じなければならないのに、国はそのようなことを一切考えてはいません。

国が考える「地域包括ケアシステム」は、公的な医療・介護保障システムではなく、あくまで「自助・互助」を中心とした受け皿作りなのです。

しかも、そのネットワーク作りは自分たちで勝手にやりなさい、と突き放しているのです。

 201312月に成立した「社会保障改革プログラム法」には「公助」の文言はなく、「自助・自立のための環境整備(第2条)、個人の健康管理・疾病(しっぺい)予防の自助努力(第4条)、介護予防の自助努力(第5条)等々、「自助」ばかりを強調しています。

また、「多様な主体」による保険事業推進、「多様な主体」による高齢者の自立支援など、「多様な主体」ばかりを主張しています。

つまり、国の責任を放棄し、患者・利用者に自己責任を押し付け、自治体の自己努力に委(ゆだ)ねているのです。

 「川上」でも「川下」でも、目指しているのは医療・介護の給付抑制だけです。

 

                                                             次号に続く

2020年

8月

31日

欺瞞(ぎまん)に満ちた「地域包括ケアシステム」 第8回

令和2年9月1日

 

安倍首相はこの度(たび)退陣を表明しましたが、本稿では引き続き安倍政治に対する論評を続けます。

 

 国は、「受け皿作り」と言いながら、診療報酬では在宅医療の評価を引き下げ、さらに介護給付範囲を縮小し、介護報酬も引き下げるなど、必要なサービスを切り捨てる「改悪」ばかり行っています。

 切り捨てられた需要の受け皿は、「市場での購入」も含めた「自助」で何とかせよ、と突き放しているのです。

また、自治体が音頭(おんど)をとって、住民同士の互助機能の強化あるいは民間サービス(国は「インフォーマルサービス」と呼んでいます)の開発により対応せよ、とも要求しています。

 

 では、「市場での購入」「インフォーマルサービス」とは一体何のことでしょうか?

 

 20154月国会に提出された医療法改正案の柱の一つが、複数の医療法人や社会福祉法人などを統合させた「地域連携型医療法人制度(非営利ホールディングカンパニー型法人制度)」の創設です。

 安倍政権は、医療の成長産業化というお題目を唱え続けています。

医療への営利主義・市場原理主義の本格導入を狙っているのです。

分かり易く言えば、医療をビジネスチャンス拡大の場にしようという訳です。

 具体的には、混合診療の推進や、地域連携型医療法人(非営利ホールディングカンパニー型法人)導入による医療機関経営の再編、医療・介護・生活支援にわたる地域産業を寡占(かせん)的に行う企業の創出などにより、医療・介護・福祉を金(かね)儲(もう)けの場として宣伝し、広く門戸を開放しようとしているのです。

 

 安倍政権が「地域連携型医療法人(非営利ホールディングカンパニー型法人)」などという聞き慣れない言葉をひねり出してきた理由を説明します。

 今後、政府が発した「地域医療構想」の号令のもと、都道府県が病院の機能別に必要なベッド数を制限した場合、多くの病院が希望する急性期病床(診療報酬が高い)から、担(にな)い手が不足すると予想される回復期・慢性期病床(診療報酬が低い)への転換を、どの病院にさせるのかが問題になるからです。

 無理やり診療報酬が低い病床に転換しろと言われても、経営側としては死活問題です。

利害対立が起こり、構想通りの提供体制が構築できない可能性があります。

 ここで、仮に、構想区域内の医療機関の多数を傘下(さんか)に治める巨大法人が設立されれば、連携推進という統一的な方針のもと、機能分化・統廃合し、「地域医療構想」の実現に役立つと考えた訳です。

さらに、傘下に入る法人として、医療法人のみならず、介護事業を展開する法人も想定しており、「川上」から「川下」までを一体的に担うことを企図しています。

                       

                               次号に続く

 

2020年

9月

30日

欺瞞(ぎまん)に満ちた「地域包括ケアシステム」 第9回

令和2年10月1日

 

 地域連携型医療法人に営利法人の参加は認められていませんが、関連事業を行う株式会社への出資は認められています。

この出資は「地域包括ケアシステムを推進する」事を前提としてのみ認めるとされています。

結局、「地域包括ケアシステム」を隠れ蓑(みの)にした営利化への手段に過ぎません。

金儲けにならなければ、参入する企業などあろう筈(はず)もないのです。

 経済産業省の「次世代ヘルスケア産業協議会」が20146月に発表した中間とりまとめでは、地域におけるヘルスケア産業を創出し、「地域包括ケアシステムと連携したビジネス」の展開が打ち出され、そのための地域の医療・介護関係者を統合した「地域版次世代ヘルスケア産業協議会」の創設が提起されています。

  「地域連携型医療法人(非営利ホールディングカンパニー型法人)」とは名称こそ違うものの、結局目指す所は、医療・介護・福祉を金儲(もう)けの対象とした「巨大な医療事業体」の立ち上げです。

 その結果、住民を囲い込み、グループ以外の医療機関を排除するなどの暴挙が予想されます。

アメリカ型の巨大病院チェーンが算入する、という地獄のシナリオを心配する医療関係者もいます。

 色々と呼び方を変えてはいますが、政府が「地域包括ケアシステム」の名のもとに、地域を医療・介護・福祉・生活支援の一大市場として拡大する事を目論(もくろ)んでいる事は間違いありません。

 政府が地域における「自助、互助」を強調している事から、高齢者への生活支援を住民活動やボランティア団体に期待していると見る事もできますが、それだけでは生活支援サービスを安定的・継続的に供給する事はできません。

 従って、政府は「地域連携型医療法人(非営利ホールディングカンパニー型法人)」に医療だけではなく、介護(介護保険制度外のサービス提供も含む)、生活支援、居住(サービス付き高齢者住宅など)をすべて提供できる法人・事業体の役割を負わせ、従えようとしているのです。

そして、公的医療・医療保険以外の健康サービス、介護保険制度のサービス、制度外サービス、居住サービスを金儲けの手段として行わせようとしているのです。

 政府の医療市場参入の呼びかけに応じて、すでに、国の「公助」に替わる手段としての「商助」を売り物にする民間企業も現れています。

 国家戦略特区(首都圏と関西圏)が動き出す中、外資系を含む金融会社や保険会社などの営利法人がハゲタカのように医療・介護・福祉分野に参入し始めています。

国の公的医療費抑制政策、医療市場拡大政策をこのまま許していると、金持ちしか良い医療を受けられなくなり、医療格差が拡大するのは確実です。

 「地域包括ケアシステム」などという「ごまかし」の謳(うた)い文句に惑わされる事なく、いつでも、どこでも、誰でも、費用の心配なく安心して医療・介護が受けられる日本を目指さなければなりません。

 

 以上で、9ヶ月間に及んだ欺瞞(ぎまん)に満ちた「地域包括ケアシステム」を終わります。

 

インフルエンザ予防接種の予診票は当院受付にてお配りしている他、本サイトからもダウンロードできます。予め記入後お持ち下さい。

  ただし、「65歳以上の藤沢市民」は、当院にて専用の予診票に記入して頂きますので、ダウンロードは不要です。

お知らせ

令和6年4月以降、発熱など風邪症状がある方も、電話連絡等は不要となりました。

令和6年3月14日(木)、21日(木)、28日(木)の各木曜日休診します。

4月以降も、毎週木曜日休診します。

3月7日(木)臨時休診します。

2月28日(水)から3月5日(火)まで臨時休診します。3月6日(水)から診療再開します。

令和6年4月より、毎週木曜日、休診します。

1月25日(木)は通常通り診療します。

2月1日(木)は急用のため、休診いたします。

急用のため、1月18日(木)休診いたします。

 

急用のため、1月11日(木)休診いたします。

 

令和5年12月29日より翌1月3日まで休診します。ただし、1月2日は藤沢市休日当番医のため、午前9時から午後5時まで、急病・外傷患者さんの診療を行います。

8/11(金)から8/17(木)まで夏期休診させて頂きます。

新型コロナワクチンの3回目接種を来年1月18日から開始します。

市から接種券が届いたら、電話にて予約して下さい。藤沢市以外の方も予約できます。

TEL 0466-31-0840