令和5年11月1日
ウッフィツィ美術館
2.「ヴィーナスの誕生」(15世紀) 続き
ギリシャ神話における愛と美の女神アフロディーテAphrodite(ヴィーナス)は、恋・不倫・娼婦の守り神でもあります。
鍛冶(かじ)の神ヘパイストスと結婚してからも、多くの神様や人間と浮気し、相手の数と同じくらいの子供を産みました。
アフロディーテが酒の神ディオニソス(ローマ神話ではバックス、英語ではバッカス)と交わり、生まれた息子がプリアポスPriaposです。
全能の神ゼウスの妻ヘラが、妊娠したアフロディーテの腹に触れ、胎内の胎児をグロテスクな巨根の持主にしたといわれます。
生まれたプリアポスは巨大なペニスを持ち、異様な姿ゆえに、母アフロディーテに捨てられてしまいました。
しかし、羊飼いに拾われ、豊穣・繁殖・生殖力を象徴する神に育ちました。
プリアポスはまた、畑・果樹園・家畜の守護神として、農夫や羊飼い達から崇拝されました。
ところで、性欲とは無関係にペニスが長時間勃起(ぼっき)したままの状態を、「持続勃起症(プリアピズムpriapism)」といいます。
生殖の神プリアポスに由来した疾患(しっかん)名です。
男性諸氏の中には「勃起したままとは、羨(うらや)ましい!?」などと不埒(ふらち)な考えを持つ方がいるかも知れません。
しかし、これは激しい疼痛を伴い、数時間後にはペニスが壊死(えし)する(腐る)重病なのです。
白血病や脊髄疾患などに伴い、陰茎海綿体や静脈内で血液が凝固するのが主な原因です。
アフロディーテが旅行・商売・知恵・伝令の神ヘルメスHermesと交わり、生まれた息子がヘルマフロディトスHermaphroditosです。
父親・母親双方の名を採って、ヘルマフロディトスと呼ばれました。
美少年に成長した彼が、澄(す)んだ泉のほとりで休んでいる時、妖精サルマキスに一目(ひとめ)惚(ぼ)れされました。
妖精はヘルマフロディトスにいきなりキスし、誘惑しましたが、彼に断られてしまいました。
諦(あきら)めきれない妖精は、泉で泳ぎ始めた彼に抱きつき、「二人が永遠に離れないように」神々に祈りました。
すると、妖精の願いが叶(かな)い、二人は一心同体と成り、男とも女とも判別できない身体になったのです。
男女両方の性器を有する人・動物を日本語では雌雄(しゆう)同体(どうたい)、両性具有(りょうせいぐゆう)、半陰陽(はんいんよう)などといいます。
英語では「インターセックスintersex」といいますが、ギリシャ神話に基づき「ヘルマフロディーテhermaphrodite」とも呼ばれます。