令和6年7月1日
ウッフィツィ美術館
7.受胎告知(じゅたい こくち)
15世紀、レオナルド・ダ・ヴィンチが20才頃の最初の単独作品です。
キリスト教の新約聖書に書かれている題材を、遠近法を用いて見事に描いています。
処女マリア(向かって右)の前に天使ガブリエル(向かって左)が舞い降り、マリアが聖霊によってキリストを懐妊したことを告げ、マリアがそれを受け入れている場面です。
私の手許(てもと)にある新約聖書の「ルカによる福音書 第1章」から抜粋(ばっすい)します。
天使ガブリエルは、ナザレに住むマリアという乙女(おとめ)の元(もと)に神から遣(つか)わされた。
マリアはヨゼフの婚約者であった。
天使はマリアに近寄り、「あなたは子を身ごもっています。その子が生まれたらイエスと名付けなさい。彼は主(しゅ)なる神の御心(みこころ)に従い、永遠に国を治めるでしょう」と言った。
そこで、マリアが「男を知らない私が、どうして母になれるのでしょうか?」と尋ねた。すると、天使は「聖霊があなたに下ったのです。生まれる御子(みこ)は神の子です」と答えた。そこで、マリアは「私は神のしもべです。あなたのお言葉の通りになりますように!」と答えた。そして、天使は去った。
皆さんもよくご存じのように、精子と卵子が融合し(受精)、その後、受精卵が子宮内膜に着床(ちゃくしょう)することによって妊娠が成立します。
新約聖書によると、ヨゼフと結婚する前の処女マリアの子宮内に、聖霊が神の子を着床させました。やがてマリアはその子を分娩し、イエスと名付けたのです。
世界中のキリスト教信者は、これを信じて疑いませんし、イエスが生まれた12月25日をクリスマスと呼んで盛大に祝っています。
仏教国である日本でも、多くの人が、イエス・キリストの生誕(せいたん)祝いであることを知らずに、クリスマスを年中行事にしています。
マリアが夫であるヨゼフと交わった結果、生まれた子がイエスであると思っている人も多いようですが、そうではありません。
あくまで、処女でありながら、イエスの母となった点が重要なのです。
天使が携(たずさ)えている白百合の花は、マリアの純潔・貞操の象徴であり、フィレンツェの象徴でもあります。
聖母マリアの「マリア」とは、ヘブライ語で「神に愛された者」という意味です。
世界では"Holy Mother"(聖母)より、"Virgin Mary"(処女マリア)、"the Virgin"(処女)、"Saint Mary"(聖女マリア)、"Santa Maria"(サンタ・マリア)、"Our Lady"(我らが貴婦人)、"the Madonna"(マドンナ)などと呼ばれることが多いのです。
フランスのノートルダム大聖堂の"Notre Dame"(ノートル・ダム)も「我らが貴婦人」という意味で、聖母マリアを指します。
そう言えば、ビートルズの曲に"Lady Madonna"(レディー・マドンナ)というのがありましたね。
これも、聖母マリアです。
ポール・マッカートニーは自分の母親がMaryであったせいか、聖母マリアがとても好きです。
同じく、彼が作った名曲”Let it be”(レット・イット・ビー)にも”Mother Mary”(聖母マリア)が登場しますね。
"Mary"(マリー、メアリー、メリー)や"Maria"(マリア)は聖母マリアに因(ちな)んだ名前で、当然、女性の名前として世界で最も多いものです。
日本でも「マリ」や「マリア」と発音する名前の女性は多いですね。
真理(まり)さん、真理子(まりこ)さん、茉莉(まり)さん、麻里(まり)さん、真莉愛(まりあ)さん、麻里亜(まりあ)さん、・・・。
他にも、沢山(たくさん)あります。
聖母マリアが日本でも愛されていることが分かります。