2010年6月1日
今回も、レセプトオンライン請求の「完全義務化」に関わる問題について述べます。
第4の問題は、「社会保障個人会計」が最終的な目的である事です。
自民・公明政府は、オンライン請求義務化と並行して、「国民の利便性向上」「保険者・サービス提供者等の事務効率化」を謳(うた)い文句に「社会保障カード」の2011年導入を目指していました。これは医療・介護・年金の3つの保険証を1枚のカードに集約し、インターネットを介して国民自(みずか)らがいつでも自身の医療・健康情報、年金記録、保険料額や納付状況を閲覧できるシステムの事です。一見、素晴らしいシステムのようですが、これによって、医療・健康管理を国民に「自己責任」として押しつけ、公的医療給付範囲を縮小しようという意図があります。民主党政府は、さらに、この「社会保障カード」を住民基本台帳と統合する事も狙っています。これにより、国民を背番号管理し、社会保障給付を一本化し個人毎に総額管理する「社会保障個人会計」を導入するのが、最終的な目的です。医療・介護・年金を一括管理し、全ての給付を削減しようという訳です。
「社会保障個人会計」が構築されると、どのような世の中になるのでしょうか?
その1つが「禿鷹(はげたか)会計システム」です。すなわち、個人の死亡時に財産が余っていれば、「保障が手厚(てあつ)すぎた」と判断され、死後精算に より、遺産・相続財産から保険金が追加徴収されてしまうのです。2つ目は、単年度精算が可能となる事です。医療費や介護費を使い過ぎた翌年には保険料が値
上げされたり、使い過ぎた人の終末期医療は給付を抑制されたりする限度額管理(年度間繰り延べ型)が行われます。死を目前にした患者が「あなたは今まで医 療費を使い過ぎたので、上限を超えた分は自己負担して下さい」と言われるのです。さらに、医療費を使い過ぎた人には年金支給額や介護保険の利用限度額を減
らす限度額管理(制度間付け替え型)も構想されています。こうなれば、社会保障制度その物が崩壊してしまいます。
第5の問題は、オンライン請求義務化には多くの憲法違反があるという事です。
まず、憲法22条及び25条違反です。憲法22条は、「何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。」と定めています。ま た、憲法25条は「すべての国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する(生存権)。」と定めています。職業選択の自由とは、自己の従事する
職業を決定する自由を意味しますが、自己の選択した職業を遂行する自由(営業の自由)も憲法22条により保障されると解するのが通説です。さらに、医師が 国民に医療サービスを提供する事により、疾病を治療し、健康の維持増進に寄与し、国民の生存権の保障にもつながるものであり、一般的な営業の自由に留まら
ない重要性があります。長年地域医療に従事してきた医師は、自己の選択した職業を遂行すると同時に、患者の生存権の保障にも貢献してきた訳です。
医師は医療行為を行い、その対価として診療報酬を得ますが、それは一個人として生活していくために不可欠であるのみならず、病院・診療所の経営にとっても 不可欠です。オンライン請求が義務化されれば、それに対応できない医師は診療報酬を得る事ができず、業務の継続が不可能となります。これは、営業の自由の 侵害のみならず、患者の生存権の侵害にも関わる深刻な問題であり、重大な憲法違反です。
また、オンライン請求義務化は憲法41条違反でもあります。憲法41条は「法律による行政」の原則を規定した法律で、「国会は国権の最高機関であって、 国の唯一の立法機関である」と定めています。唯一の立法機関とは、国の立法権は国会が独占する事(国会中心立法の原則)、及び国の立法は国会の手続きにお
いてのみ完成し他の国家機関の関与を許さない事(国会単独立法の原則)を意味します。また、国家行政組織法12条には「各省大臣は法律を施行するため、各 々の機関の命令として省令を発する事ができる」と定められています。つまり、省令はあくまでも法律を実行するために省庁が発する命令にすぎないのです。保
険医療機関の診療報酬請求方法をオンライン請求に限定し、他の請求方法を認めない厚生労働省令第111号は、国民の権利(診療報酬請求権)に新たな制限・ 負担を設ける制度の新設に他なりません。
このように国民の権利に直接影響を与える制限を、国会での法律制定に寄らず、省令により直接実現しようとする横暴は、憲法41条違反であり無効です。
以上のように、レセプトのオンライン請求「完全義務化」は多くの問題・違憲性を抱えており、民主党が公約する「原則化」への変更では不十分であり、完全に撤廃するべきなのです。