2010年4月1日
7.レセプトオンライン請求の「完全義務化」から「原則化」への変更
民主党は次のように公約しています。
レセプトのオンライン請求を「完全義務化」から「原則化」に改め、過疎地の診療所をはじめとする小規模医療機関の撤退などに象徴される医療現場の混乱や地域医療の崩壊が起こらないようにする。
まず、レセプトオンライン請求とは何かについて説明します。
レセプトとは、患者さんが医療機関にて診療を受けた場合に、かかった費用から窓口負担を差し引いた残りの金額(報酬)を、医療機関が審査支払機関を経て保 険者に請求するための請求明細書です。ちなみに、保険者とは、健康保険事業を運営するために保険料を徴収したり、保険給付を行ったりする運営主体です。健
康保険の保険者には、①全国健康保険協会、②健康保険組合、③国民健康保険、④後期高齢者医療広域連合の4種類があります。
医療機関は、保険者から委託を受けて、被保険者(患者)に療養の現物給付(診療)を行う訳です。レセプトには、患者さんの氏名、生年月日、傷病名、治療開始日、転帰、検査、処置、投薬等の内容が記載されており、診療報酬は審査を受けた後、医療機関に支払われます。
レセプトの提出方法は、①紙に手書き、もしくは印刷して提出、②CDやフロッピーディスク等の記録媒体で提出、の2通りがありましたが、2007年よ り、③ISDN回線やインターネット回線を用いて提出する方法が加わりました。そして、2011年4月以降はほぼ全ての医療機関に対して③の方法しか認め
ない、①②の方法で提出しても報酬を支払わない、という理不尽な決まりが「オンライン請求の義務化」です。
これは、2006年に、国会審議も経ずに、小泉純一郎首相の肝いりで唐突に発せられた厚生労働省令第111号で決められました。
オンライン請求が義務化されれば、専用コンピューターの購入費用、専用ソフトの導入費用、オンライン接続の敷設(ふせつ)費用、入力のための事務員人件 費、業者への委託費、導入後の保守・点検費用などの多額の経費がかかります。NTTなどのIT業界には巨大な市場をもたらしますが、医療機関には大きな負
担です。特に、これまで手書きでレセプトを作成していた高齢医師はコンピューターが苦手な方が多く、長年地域医療に勤(いそ)しんできたベテラン医師に引 退を迫る事になりかねません。事実、全年齢の開業医を対象にした日本医師会の調査でも、1割近くの医師が、「義務化」されれば閉院すると答えています。
民主党が義務化を止めて、オンライン請求はあくまで原則とし、例外を認める方向に方針転換するのは、一歩前進ではあります。しかし、「原則化」は将来「義務化」へと進む危険性があります。やはり、オンライン請求は、あくまで①②と共に自由選択制にすべきです。
医師が診療を拒否すれば報酬が支払われない、というのなら理解できます。しかし、受診してきた患者を診察し、検査を行い、診断を下し、治療を行ったにも かかわらず、紙の請求書やフロッピーディスクの請求書を持ってきてもカネは払わないぞ、カネが欲しければインターネットで集金しに来い!と恫喝(どうか つ)するとは、何という横暴でしょうか!
オンライン請求「義務化」には、他にも大きな問題が内包されています。
第1の問題は、個人情報漏洩(ろうえい)の危険です。医療機関から審査支払機関に送られたデータは、審査の後、保険者に送信されます。この過程のどこかで 診療情報が漏れやしないか、あるいは盗まれるのではないか、非常に心配です。情報を入手した者(ハッカー)が患者さんの生活に驚異をもたらす可能性もある
のです。例えば、精神科や産婦人科の受診歴や、病名、診療内容が悪用されれば、恐喝やストーカー行為等の犯罪に利用し得るからです。紙やフロッピーディス クのレセプトだって盗まれる危険はあるじゃないか、と思われるかも知れません。確かに、そうです。けれども、オンラインで送信される電子データの情報量は
紙に比べて膨大です。何万人分の紙レセプトを盗み出し、それを悪用するのは大仕事ですが、過去の金融機関からの電子データ漏洩事件では、一度に数十万人分 のデータが漏洩しました。これまで、提出された紙レセプトは、保管年数経過に従って順次廃棄されてきましたが、電子データになると、一生涯のデータが半永
久的に蓄積される上に、一度インターネット上に流出してしまうと完全消去する事は不可能です。
この情報を繰り返し利用する事も簡単に行えます。漏洩した際の被害は計り知れません。