令和5年12月1日
ウッフィツィ美術館
3.皮を剥がれたマルシュアス
ギリシャ神話では、「技術の女神」アテナが美しい音色を出す笛を作り、神々の宴会の席で吹いてみせました。
すると、ゼウスの妻ヘラと美の女神アフロディーテが、「頬(ほお)を膨(ふく)らませたアテナの顔が滑稽(こっけい)だ」と言ってからかいました。
アテナは憤慨(ふんがい)し、笛を投げ捨てましたが、それを拾ったのがヤギのツノとヒヅメを持つ森の精霊マルシュアスです。
マルシュアスは、ほどなく笛を巧(たくみ)に吹きこなし、小鳥から猛獣に至るまで、森に住むあらゆる住人達を魅了しました。
マルシュアスは有頂天(うちょうてん)になり、すっかり慢心して、自分が世界一の音楽家だと思いこんでしまいました。
そして、傲慢(ごうまん)にも、「音楽の神」「太陽神」アポロンに勝負を挑んだのです。
アポロンは「勝者は敗者を自由にできる」という条件で、マルシュアスの身の程(ほど)をわきまえない挑戦に応じました。
マルシュアスは得意の笛を吹き、アポロンの奏(かな)でる竪琴(たてごと)に対抗しましたが、神様に太刀(たち)打ちできる訳がありません。
音楽対決はアポロンの圧倒的勝利となりました。
アポロンは心・技・体全てを兼ね備えた理想の神で、まばゆいばかりに光り輝いていましたが、無謀(むぼう)な思い上がりに対しては、容赦(ようしゃ)なく無慈悲な罰を下す恐ろしい神でもありました。
アポロンは、泣き叫び許しを請(こ)うマルシュアスを、松の木に縛(しば)り付け、全身の皮を剥(は)いで殺してしまいました。
アポロンは、「傲慢」という罪に対して、残酷な罰を与えたのです。
マルシュアスの音楽を愛していた仲間達が流した涙は、フリュギア地方(現在のトルコ)を流れるマルシュアス川となりました。
この川には、今でも、この地方で最も澄(す)んだ水が流れ、しかも、その流れは美しい音色を奏でているそうです。
古代ギリシャの哲学者アリストテレスは、『弁論術』の中で、「若者や金持ちは傲慢に走りやすい。傲慢に振る舞うことで優越感を覚えるからである」と述べています。
イギリスの精神科医デービッド・オーエンも、傲慢症候群(ヒュブリス・シンドローム)という疾患概念を提唱しています。
これは、人格障害の一種です。
「傲慢(ヒュブリス)が人の心にとりつくと、当人に限度を超えた野心を抱(いだ)かせ、挙句(あげく)の果(は)ては、当人を破滅に導く。自己愛が強いと、自分は特別という特権意識が働くため、傲慢になりやすい。傲慢になると、自己顕示欲が増長し、権力や財力などの特権を振るいたくなる。一生懸命頑張って、望みの地位を手に入れた人が陥(おちい)りやすい人格障害だ」そうです。
○シ○のプ○○ン大統領や、中△の△近△国家主席、✕朝✕の✕正✕総書記は、この人格障害の典型例です。
私達も自省し、礼儀を重んじ、謙虚に振る舞わなければなりませんね。
因(ちな)みに、「傲慢」という意味の英語・ギリシャ語"hubris"(ヒュブリス)は「混成」という意味の英語"hybrid"(ハイブリッド)の語源でもあります。
「ハイブリッド」はハイブリッド・カーやハイブリッド・コンピューターなど、「高機能」を連想する言葉として、最近、頻繁に使われます。
昔の人から見れば、「高機能」なのは「傲慢」なのでしょうね。