Message from the Directorを更新しました(Jan 1,2024)。
Exploring the History of Medicine, Part 51: Florence, Part 31
令和6年3月1日
ウッフィツィ美術館
5.ヘルメス(続き)
ゼウスはイオを助けるため、ヘルメスに怪物の巨人アルゴス退治を命じました。
ヘルメスはあらゆる者を「眠らせる」力を持っていました。
彼は得意の葦笛(あしぶえ)を吹き、アルゴスを眠りに誘いました。
一つ一つ、怪物の目を閉じさせて、ついに全部の目を眠らせてしまいました。
ヘルメスは、素早くアルゴスの首を切り落として、牝牛(めうし)のイオを解放しました。
腹心(ふくしん)の部下であるアルゴスを殺され、ゼウスの妻ヘラは怒りが収まりません。
今度は、牝牛のイオの耳にアブを押し込み、苦しめました。
アブの羽音(はおと)に悩まされ、刺され続けたイオは狂ったように諸国をさまよい続けました。
イオはギリシャからボスフォラス海峡を渡ってトルコに行き、とうとうエジプトにたどり着きました。
ここで、再びゼウスの命令を受けたヘルメスが現れて、牝牛(イオ)の耳からアブを捕(と)り出し、イオを元の人間の姿に戻してやりました。
ラテン語で「牛」を"bos"(ボス)といいます。
また、ギリシャ語で「運ぶ」を"phoros"(フォロス)といいます。
牛の姿をしたイオが渡った海峡だから、ボスフォラスBosphorus(牛の渡し)(英語ではBosporus)海峡と呼ぶのです。
トルコのヨーロッパ部分とアジア部分(オリエント)を隔(へだ)てる海峡で、現在のイスタンブール(かつてのコンスタンティノープル)にあります。
東西文化の接点です。
黒海とエーゲ海を繋(つな)ぎ、イスタンブール海峡とも呼ばれます。
アレキサンダー大王(紀元前4世紀、マケドニア(ギリシャ)の英雄)やマホメット(ムハンマド、7世紀、イスラム教の創始者)、チンギス・ハン(ジンギスカン、13世紀、モンゴル帝国の初代皇帝)などもこの海峡を渡りました。
歴史的に極めて重要な所です。
ゼウスの妻ヘラは忠臣(ちゅうしん)アルゴスの死を悲しみ、百の目をクジャクの羽に縫い付けました。
クジャクの羽の模様は、怪物アルゴスの百の目なのです。
繁殖期になると、クジャクのオスはメスの気を引くため、長く美しい飾り羽を広げます。
メスの羽は短く褐色で、模様も目立ちません。
また、羽が抜け変わるところから、キリスト教社会では、クジャクは復活の象徴と考えられているそうです。
ゼウスと愛人イオは、星となった今も深い関係を保っています。
木星(ジュピターJupiter、ローマ神話のユピテル、ギリシャ神話ではゼウス)の第1(最も内側を回る、すなわち最も木星に近い)衛星がイオIoと名付けられているのです。