令和6年4月1日
ウッフィツィ美術館
6.アリアドネ
ギリシャ神話には、次のような話があります。
全能の神ゼウスの子ミノスが、クレタ島の王様になりたいと思いました。
ミノスは「自分が王になるのが神の意志」であることを示すため、海神ポセイドンに頼み、後で返す約束で、海から生まれた雄牛を貰(もら)いました。
ミノスは海神から貰った雄牛を人々に見せて、「自分は神から王として認められた」と主張し、政敵を押さえてクレタ島の王となりました。
しかし、その後、ミノスはこの雄牛があまりに美しいため、海神ポセイドンに返すのが惜しくなり、隠してしまいました。
ミノスの約束違反に怒ったポセイドンは、罰として、ミノスの妃パシファエをこの雄牛への邪恋(じゃれん)に狂わせるように、仕向けました。
雄牛に恋した王妃パシファエは、雄牛と交わり、「頭が牛・身体が人間(牛頭人身)」の怪物ミノタウロス(「ミノスの牛」という意味)を産みました。
ミノタウロスは成長するにつれて乱暴になり、手に負えなくなりました。
そこで、ミノスは、この怪物を迷宮ラビリントス"Labyrinthos"(クノッソス宮殿)に閉じ込め、属国のアテナイ(アテネ)から送られてくる少年少女を餌(えさ)として与えました。
この迷宮ラビリントスは、入ったら2度と出られないと言われていました。
アテナイの英雄テセウスは自ら志願し、ミノタウロスの餌食(えじき)としてラビリントスに侵入しました。この際に、テセウスを手引きしたのが、ミノス王の娘 アリアドネです。
テセウスに恋したアリアドネは、テセウスに糸の玉を渡し、糸の端を迷宮の扉に結び付けました。糸をほぐしながら迷宮を進んだテセウスは、怪物ミノタウロスを退治した後、糸をたどりながら来た道を戻りました。
この神話が元になり、迷宮を表す紋様(もんよう)は「苦難の旅」の象徴となり、難問解決の手段を「アリアドネの糸」と呼ぶようになったのです。
解決しない難事件が「迷宮入り」と言われるのも、この神話に基づきます。
また、古代のクレタ島では、実際に人間と牛が交わる(?)という儀式があったそうです。
迷宮ラビリントスを脱出したテセウスは、アリアドネを連れて船でアテナイへの帰国の途につきました。その途中、一行はナクソス島に寄港しました。
ところが、この島では、眠っているアリアドネを、酒の神ディオニュソス(バッカス)が連れ去ってしまいました。ディオニュソスは彼女に金の冠を与えました。
その冠は、後に星座「かんむり座」となりました。
アリアドネを失い悲嘆にくれたテセウスは、クレタ島への出発前にアテナイの王である父アイゲウス"Aegius"と、「生きて帰れた時は船の帆を黒から白に張り替える」と約束していたことを忘れてしまいました。
息子の生還を待ちわびていたアイゲウスは、黒い帆を見て息子が死んだと思い、絶望のあまり、海に身を投げて死にました。その海は、「アイゲウスの海」という意味の「エーゲ海」"Aegean Sea"と呼ばれるようになりました。
耳の奥の内耳は聴覚と平衡感覚を司(つかさど)る重要な器官ですが、その解剖学的構造が甚(はなは)だ複雑なため、「迷路」"Labyrinth"(ラビリンス)と呼ばれます。
迷宮ラビリントスに因(ちな)みます。