2013年7月〜2013年10月 掲載
2013年
7月
01日
月
平成25年7月1日
本年5月24日の参院本会議で、税・社会保障の「共通番号制」の導入に向けた法案「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」(「マイナンバー」法案)が可決、成立しました。平成28年1月から番号の利用がスタートします。
行政機関は現在、国民の個人情報をばらばらに管理しています。
マイナンバー法案は、全ての国民に、税と社会保障の各分野で共通に利用できる識別番号(マイナンバー)を割り付け、個人情報を一元管理する事を可能にする制度です。
もっと分かり易く言うと、全ての国民に背番号を付けて、税務・医療(健康保険)・介護保険・年金・労働保険・福祉の6分野に関する個人情報を背番号だけで一元的に管理しようというのです。
平成27年秋頃に市区町村が国民全員に、マイナンバーが記載された「通知カード」を郵送します。希望者には、氏名・住所・顔写真などを記載したICチップ入りの、保険証機能を有する「個人番号カード」が配られる予定です。
政府は共通番号制を導入する目的を次のように喧伝(けんでん)しています。
1.正確な所得の捕捉(ほそく)
国民に背番号を付けてお金の動きを監視する事により、一人一人の所得額や社会保障の受給実態を正確に把握する事が可能となる。「税逃れ」も防止できる。
これにより、税や社会保障の公平性が担保される。
2.よりきめ細やかな社会保障給付の実現
個人の所得・資産を正確に把握する事によって、所得比例年金の支給が可能となる。
また、低所得者対策として給付付き税額控除(所得税を免除するだけでなく、現金を支給)を行う事も可能となる。
もう一つの有効な低所得者対策として、「総合合算制度」の導入も可能となる。
これは、医療・介護・障害福祉・子育ての4分野における自己負担総額の上限を世帯ごとに設定し、自己負担が上限を超えれば以後の負担が免除される制度をいう。
さらに、給付過誤や給付漏れ、二重給付などを防止できる。
3.行政の簡素化
年金などの社会保障給付の手続きや税金の確定申告など、各種の行政手続において、住民票や納税証明書等の添付書類が不要になる。
つまり、手続きが大幅に簡素化される。
また、行政機関(県庁、市役所、税務署など)相互の照会事務も簡素化される。
これにより、行政は透明化され、事務経費は大幅に軽減し、国民の利便性も向上する。
どうです? 皆さん。
マイナンバー制は良い事ずくめの素晴らしい制度のように見えますね。
マスコミの論調も、政府の広報活動に乗せられて賛成一辺倒です。
しかし、騙(だま)されてはいけません。
この法律はとんでもない悪法なのです。
次号に続く
2013年
7月
31日
水
平成25年8月1日
政府は、国民一人一人が税・社会保障各分野に共通する番号を持つ事による様々な利便性を喧伝(けんでん)しています。その内容は、前回述べました。
しかし、その反面、この制度には多くの弊害があるのです。
マスコミが、共通番号制が抱(かか)える危険として口を揃えて指摘するのが、個人情報のインターネット上への漏洩、成りすまし悪用、サイバー攻撃による全国民情報の略奪などの懸念です。その際の被害への対応は誰がどうやって行うのでしょうか?
損害賠償費用は想像を絶する額になるでしょう。
また、そもそも全国民の所得を正確に捕捉するなど、絵空事(えそらごと)に過ぎません。
国内で行われる全ての商取引や、海外投資による利益を完全に把握する事など、不可能だからです。
その上、共通番号制にはもっと重大な危険が潜んでいるのです。
ほとんどのマスコミはこの危険について報道しません。あるいは、隠しているのかも知れません。しかし、これこそが共通番号制の真の目的なのです。
共通番号制の目玉として、政府が謳(うた)い文句にしている「総合合算制度」の目的は、低所得者対策などではありません。真の目的は「社会保障個人会計」です。
「社会保障個人会計」こそ、共通番号制導入によって可能となる悪政なのです。
「社会保障個人会計」については「院長から一言(平成22年6月1日)」で、レセプトオンライン請求の「完全義務化」に関わる問題として説明しました。
読んでいない方のために、一部を抜粋し、加筆します。
かつての(民主党への政権交代以前の)自民・公明政府は、「国民の利便性向上」「保険者・サービス提供者等の事務効率化」を謳(うた)い文句に、「社会保障カード」の2011年導入を目指していました。
これは医療・介護・年金の3つの保険証を1枚のカードに集約し、インターネットを介して国民自(みずか)らがいつでも自身の医療・健康情報、年金記録、保険料額や納付状況を閲覧できるシステムの事です。
一見、素晴らしいシステムのようですが、これによって、医療・健康管理を国民に「自己責任」として押しつけ、公的医療給付範囲を縮小しようという意図があります。
政権交代後の民主党政府は、さらに、この「社会保障カード」を住民基本台帳と統合する事も狙っていました。
これにより、国民を背番号管理し、社会保障給付を一本化し、個人ごとに総額管理する「社会保障個人会計」を導入するのが、最終的な目的です。
医療・介護・年金を一括管理し、全ての給付を削減しようという訳です。
「社会保障個人会計」が構築されると、どのような世の中になるのでしょうか?
その1つが「禿鷹(はげたか)会計システム」です。すなわち、個人の死亡時に財産が余っていれば、「保障が手厚(てあつ」すぎた」と判断され、死後精算により、遺産・相続財産から保険金が追加徴収されてしまうのです。
2つ目は、単年度精算が可能となる事です。
医療費や介護費を使い過ぎた翌年には保険料が値上げされたり、使い過ぎた人の終末期医療は給付を抑制されたりする限度額管理(年度間繰り延べ型)が行われます。
死を目前にした患者が「あなたは今まで医療費を使い過ぎたので、上限を超えた分は自己負担して下さい」と言われるのです。
さらに、医療費を使い過ぎた人には、年金支給額や介護保険の利用限度額を減らす限度額管理(制度間付け替え型)も構想されています。
こうなれば、社会保障制度そのものが崩壊してしまいます。
先月の参議院選挙で衆参のねじれを解消し一党独裁となった安倍自民党政権が、マイナンバー制導入によって行おうとしている最大の悪政が、この「社会保障個人会計」です。
これこそが、マイナンバー制の真の狙いなのです。
次号に続く
2013年
8月
31日
土
平成25年9月1日
先月、内閣官房社会保障改革担当室が発表した「社会保障・税番号制度について」には、共通番号制の役割が以下のように明確に示されています。
「行政機関等の間や業務間の連携が行われることで、より正確な情報を得ることが可能となり、真に手を差し伸べるべき者に対しての、よりきめ細やかな支援が期待される」
ところで、経団連は長年に亘(わた)り、共通番号制導入を政府に対して求めてきました。
社会保障個人会計も元経団連会長の奧田氏らが提案したものです。
経団連の主張の要点を述べます。
「企業には更なるコスト低減が必要である。
国民の税・保険料負担増加や、将来への負担転嫁に歯止めをかける事も必要である。
そのため、国民の生活は自立・自助を基本とするべきであり、これを前提として社会保障制度の改革を進める事が必要である。
そのために納税・社会保障・福祉制度に共通する番号制度が必要である。
そして、生活履歴に基づくサービス個別化・差別化のために共通番号を利用するべきである。さらに、共通番号制を民間利用して、国民の自立につなげるべきである」
内閣官房が共通番号制度の役割を説明するのに用いる「真に手を差し伸べるべき者」とはどういう意味でしょうか?
また、経団連が企業・国民の負担を軽減するために、共通番号制を「民間利用」して促進する「自立・自助」とは何でしょうか?
内閣や経団連が共通番号制を利用して目指す社会とは、自分が納めた税金や保険料を上回る多額の公費を使う人々を社会にとっての「お荷物」として切り捨てる社会なのです。
まず、共通番号によって得られた個人情報、すなわち生育・学業・職業・疾病・投薬などの生活歴、身体・精神の障害の有無や程度、家族状況、立ち寄り先などの情報を総合的に利用して国民が詳細に仕分けられます。
そして、就労可能なのに就労していない者、就労の努力をしない生活保護受給者、完治の見込みがない病人、社会的負担ばかりが大きいと決めつけられた障害者や高齢者などは「支援をすべきでない人」という烙印(らくいん)を押されます。
このような人達への社会保障給付を「非効率で無駄なもの」として、一方的に切り捨てる事で、社会保障費の抑制(しばしば、「重点化」「効率化」と聞こえの良い表現が用いられます)を図ろうというのです。
逆に、自分が納めた税金や保険料の総額に相当する公的サービス(年金、医療、介護など)の給付をまだ受けていない人達を、「真に手を差し伸べるべき者」として、選別する訳です。
「支援をすべきでない人」と「すべき人」を国の基準に従って自動的に仕分けるための個人情報(データ)を集める道具として、共通番号が使われるのです。
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2013年
9月
29日
日
平成25年10月1日
政府が、個人情報を集約し国民を仕分けるために、共通番号を利用しようとしている事を前回明らかにしました。
政府の番号制度創設推進本部が主催し、2011年に開催された「番号制度シンポジウム」で、一般参加者から次のような質問が出ました。
「税金を払っていないのに多くの公費を使っている人は利用を抑制して下さい、というような目的に共通番号が使われる心配はないか?」
この質問に対して、政府の御用学者は次のように明(あ)け透(す)けに答えました。
「政府予算の5割以上が社会福祉関連となった。これは大変な時代だ。公的医療保険制度の持続性に疑問符が付く状況だ。誰がこの保険制度の頻繁な利用者かを明らかにするのが共通番号制度の目的だ。末期の病人一人一人の生存日数を考えると、末期医療に対して保険制度から支出する意味があるのか?」
これは恐ろしい回答です。
末期の病人を公費を使って治療するのは止(や)めよう、と言っているのも同然です。
共通番号制によって、多額の医療費を使う重病患者、多額の介護費用を使う身体・精神障害者や認知症老人などは、自己負担か命の放棄かの選択を迫られるのです。
当然、パチンコに出掛ける生活保護受給者は生活保護を打ち切られるでしょう。
「支援は必要ない」と見なされた人には、余命は保証されないのです。
共通番号制の導入によって施行可能となる社会保障個人会計は、支払った税金や社会保険料の合計と将来得られる給付額の収支勘定を国民自らに確認させる仕組みです。
言い方を変えれば、国民一人一人が具体的な金額として社会保障の損得を確認させられる事になります。
この確認作業によって給付への不安が生じた者は、自己責任のもとで民間保険に加入したり、金融商品を購入したりして「自立」せよという訳です。
ここで経団連の出番です。
経団連に加盟している保険会社や金融会社が国民の「自立」を商売のネタにするのです。
「真に手を差し伸べるべき人」「適時・適切に支援を供給」「充実、効率的」「自立・自助」「民間利用」「個別化・差別化」など聞こえの良い言葉を並べられると、素晴らしい社会が到来するのではないかという錯覚に陥ってしまいそうです。
しかし、騙されてはいけません。
共通番号制によって政府や経団連が行おうとしているのは、生活保護の打ち切り、サービス受給の制限、そして医療保険・介護保険・福祉・年金などの制度からの排除です。
共通番号制には、種々の手続き(確定申告や住民登録など)における事務作業の軽減以外にはメリットがありません。
共通番号制などなくても、現在の社会保障の各分野別の番号管理で充分です。
民間シンクタンクである野村総合研究所は「共通番号制がなければ出来ない事など、ほとんどない」と分析しています。
共通番号制が政策として出されてきた経緯や背景、そして、これが社会保障に何をもたらすのかがお分かり頂けたでしょうか?
決して、我が国に導入してはいけない制度なのです。
今回で、共通番号制度についてのお話を終わります。