医学の歴史を訪ねて 第65回 ローマ編 その10

令和8年4月1日

 

ティべリーナ島

 ローマ市内を流れるテヴェレ川には、一つだけ中州(中の島)があり、ティべリーナ島といいます。

  この島の東側にかかるファブリーチョ橋(紀元前1世紀)は、ローマに現存する橋の中で、ミルヴィオ橋(紀元前2世紀)に次いで2番目に古い物です。

今日まで、ほとんど修復されずに残っており、立派に現役です。私も渡りました。

 また、島の南側の川の中には、古代ローマ時代最古(紀元前2世紀)の石造りの橋の遺構があります。

往時は「アエミリウス橋」という名でしたが、現在は、「ロット橋(壊れた橋)」と呼ばれています。

この島の橋は歴史的に重要なので、紙面を割いてお話しました。

 しかし、この島には我々医療人にとって、橋以上に重要な物があります。

医学史上における意義は、間違いなく3本の指に入ります。

この島にローマ最古(即ち、西洋最古)の病院が建てられたのです。

 紀元前3世紀初頭、ローマはぺストに襲われ、大勢の死者が出ました。

疫病の鎮静化を願ったローマ人は、ギリシャ神話の医学神アスクレピオスを招くため、遠くギリシャのエピダウロスまで船で赴きました。

アスクレピオスは蛇に姿を変えて迎えの船に乗り、ティベリーナ島に着いたそうです。

 ローマの人々は、紀元前291年、アスクレピオスを祀る神殿を島に建てました。

神殿の前は病気の回復を願う人々であふれました。

島はローマ人の生活地域から離れているため、感染予防の点からも効果的でした。

 この島は、全体として石灰岩でできていますが、アスクレピオスを船で運んだ故事を伝えるため、船の形に造られています。

島の南端には船首の形をした遺構もあります。

 西洋医学では、ギリシャ神話に登場するアスクレピオスが医学の神様とされます。

このアスクレピオスは、オリンポス12神の一人であるアポロ(アポロン)の子です。

アスクレピオスについては、平成3381日のヴェネツィア編、平成34101日・平成3591日・平成3611日のフィレンツェ編でも述べましたので、ご覧下さい。

 医神と崇められたのはアスクレピオスだけではありません。

長男マカオンは外科の、次男ボダレイオスは内科の守護神となりました。

長女ヒュギエイアは健康の女神として英語の「衛生学hygiene(ハイジーン)」の語源となり、次女パナケアPanaceaは薬・癒しの女神です。

パナケアPanaceaはギリシャ語では「全てを癒す」で、現代英語でも「万能薬」を意味します。

まさに、アスクレピオスの家族は医学神の一家なのです。

 アスクレピオスは病人やけが人を往診して癒しを与えましたが、いつも一匹の蛇が巻きついた杖を持って訪れました。

そして、「1匹の蛇が巻きついた杖」その物が西洋医学のシンボルマークとなりました。

                                                       次号に続く

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医学の歴史を訪ねて 第56回 ローマ編 その1

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