ドゥカーレ宮殿のアトラス像
ドゥカーレ宮殿にはアトラス像があります。
ギリシャ神話では、「天」の神ウラノスと、「大地」の神ガイアとの間に生まれた神々と、その子孫をタイタンTitanと呼びます。
タイタン一族は、どの神も皆、怪力で巨大です。
英語の"titanic"(タイタニック)という形容詞は「巨大な」という意味です。
"titanic"は元々、"Titanic"(ギリシャ神話のタイタンのように怪力で巨大な)という単語なのです。
20世紀始め、大西洋に沈んだイギリスの豪華客船「タイタニック号(Titanic)」の名も、当時世界最大だったことに由来しています。
元素のチタン(titaniumチタニウム)は、非常に優れた強靭さと耐久性を併せ持つため、こう名付けられました。
ギリシャ神話では、タイタンの一人がアトラスで、やはり怪力で巨大な神です。
タイタン一族はオリンポスの神々と戦って、敗れました。
オリンポスの神々の頂点に君臨するのが全能の神ゼウスであり、タイタン一族の中で最後までゼウスに抗(あらが)ったのがアトラスだったのです。
戦いに敗れたアトラスはゼウスの命令により、世界の西の果てで、天空(天球)を担(かつ)ぐ役を課せられました。
人体の第1頚椎(一番上の頚の骨、頭蓋骨の直下の骨)は、丸い輪(わ)っかのような形状なので「環椎」と呼びます。
環椎の別名が「アトラス」です。
この骨が真下から頭蓋骨を支える様子を、アトラスが天球を支える姿になぞらえているのです。
ギリシャ神話では、勇者ペルセウスが怪物メドゥーサを退治しました。
怪物メドゥーサは、睨(にら)みつけた相手を石に変えてしまう魔力を持っていました。
ペルセウスは切り落としたメドゥーサの首を持ち、アトラスを睨みつけさせました。
アトラスは大きな石の塊(かたまり)となり、天空を担ぐ役から解放されました。
こうして、アトラスは山に姿を変えました。
この神話に基づき、北アフリカの山脈が「アトラス山脈」と名付けられたのです。
また、アトラスAtlasが西の果てで天空を担がされた故事(こじ)から、大西洋がAtlantic Ocean(アトランティック・オーシャン)と呼ばれるようになりました。
さらに、地図帳をアトラスと呼ぶのは、16世紀にメルカトルが地図帳の表紙に、ギリシャ神話のアトラスを描いた事に由来します。
図表や図譜を集めた本もアトラスと言いますが、これらも一種の「地図帳」だからです。
ギリシャ神話のアトラスが天空を担いだことから、ヨーロッパでは、組織や家庭で重荷を担(にな)う人、すなわち大黒柱となる人をアトラスと呼ぶそうです。
我々も、人からアトラスと言われるような大物になりたいものです。