Message from the Directorを更新しました(Jan 1,2025)。
Exploring the History of Medicine, Part 51: Florence, Part 31
令和7年10月 医院経営は非常に厳しい
当院は9月18日で開業満25年になりました。
この「院長挨拶」も、今回で18回目です。
おかげ様で、来院患者数は3万人まで、あと僅(わず)かです。
開業満25周年にふさわしい明るい話題を提供したいところですが、是非皆様に知って頂きたく、恥を忍んで、医院経営の窮状についてお話します。
四病院団体協議会の「2025年度病院経営定期調査」で、日本全国の病院の8割が赤字経営という実態が明らかになりました。
また、国立大学病院長会議の会長は10月3日の記者会見で、国立大学病院本院42病院の75%で、2025年度経常損益が赤字になる見通しだと報告し、「過去最大の危機を迎える」と強い懸念を示しました。
NHKの「クローズアップ現代」などテレビや新聞で、病院の経営難を訴える報道をご覧になった方も多いでしょう。
厳しいのは病院だけではありません。
医院の経営も、大変なのです。
日本医師会の松本会長は、2025年「診療所の緊急経営調査」から、「医院の5割が赤字」と危機感を示しました。
世間一般では、「医者は儲かっている」と思っている方が多いでしょうが、実態は全く違うのです。
どうしてこんな事態に陥(おちい)っているのでしょうか?
これから説明します。
日本経済団体連合会の発表によると、2025年春季労使交渉において、大手企業139社の平均賃金アップ率は5.39%でした。
2025年8月に発せられた、国家公務員の給与を決定する人事院勧告でも、3.62%の月給アップでした。
今年度に限らず、人件費は急騰(きゅうとう)し続けています。
当院でも、従業員の給与は、この10年間でかなり上昇しました。
募集する際、給与を他院より高額に設定しても、なかなか応募がないのです。
医療分野に従事したいと思っても、他の業界の方が高額の給与を提示しているため、そちらに人材が流出しているのでしょう。
また、2025年4月時点での日本の消費者物価は前年比3.6%増と、G7諸国においても一番高い伸び率を示しています。
皆さんはご存じないかも知れませんが、我々が日常診療で用いる使い捨ての注射器、ガーゼ、絆創膏、採取した血液・尿を入れる試験管などの消耗品代は診療報酬で手当てされていません。
つまり、医院からの持ち出しなのです。
ピンセット、ハサミなどの道具や血圧計、洗面器、点滴スタンドなどの備品についても同様です。
購入にかかる費用は、すべて持ち出しです。
これら消耗品・道具・備品の購入単価も年々上がっています。
納入業者の見積もりを見る度に、私は悲鳴を上げています。
しかるに、政府自民党は1980年代から40年以上に亘(わた)って、医療費抑制政策を執り続けています。
診療報酬は、直近の20年間に限っても、累計10%以上も引き下げられ、物価高騰や人件費上昇に全く見合わない、低額になっているのです。
その結果、我々医療現場は賃上げや人員確保、設備維持・更新に困難を極めています。
「だったら、窓口で患者さんに請求する治療費を値上げすれば良いじゃないか」と思われるかも知れませんが、診療報酬は国が定める公定価格のため、値上げしたくても上げられないのです。
医院の収入が増えなくても、注射器やガーゼを使わない訳にはいきません。
従業員は給料を上げてやらないと、文句を言い、辞めていきます。
結局、運転資金を取り崩して工面するしかありません。
「誰でも、どこでも、どんな病気でも」等しく医療が受けられる、日本の国民皆保険制度は世界に冠たる素晴らしい制度です。
しかし、この誇らしい、日本の保健医療政策は、医師の献身的自己犠牲の基(もと)に成り立っているのです。
毎年、医療機関の倒産、休廃業・解散は過去最多を更新しています。
今年も、閉院や診療科の縮小・閉鎖が全国で起きています。
このままでは、地域の医療提供体制が維持できず、「皆保険あって、病院・医院なし」が現実になるでしょう。
病院も医院も火急の経営危機なのです。
当院も決して例外ではありません。
この原稿を書いている10月13日の時点では、自公連立政権が分裂し、総理大臣も未定です。
誰が総理になろうとも、医療費抑制政策を医療費増加政策に転換し、診療報酬を大幅に上げない限り、日本の医療は早晩崩壊します。