医学の歴史を訪ねて 第62回 ローマ編 その7

令和7年12月1日

 

真実の口

 「嘘つきがこの口に手を入れると、食べられてしまう」という言い伝えで有名な「真実の口」は、ギリシャ正教のサンタ・マリア・イン・コスメディン教会"Santa Maria in Cosmedin"にあります。

この教会は、この辺りに多く住んでいたギリシア人のために、6世紀に建てられました。

8世紀に改築された際に、ギリシャ人達によって装飾(コスメディン)されたため、こう呼ばれます。

 英語でもcosmetic美容・化粧品、cosmetic surgery美容外科、cosmetician美容師などの言葉があります。

 映画「ローマの休日」で、グレゴリー・ぺックが「真実の口」に手を入れ、食べられてしまう振りをして、オードリー・ヘップバーン扮する王女を驚かせた場面は、世界中の人が知っています。

 「真実の口」がある石は、古代ローマ時代の下水道の蓋(マンホール)です。

描かれているのは髭(ひげ)もじゃのお爺さんに見えますが、実は人間ではなく、ギリシャ神話に登場する牧神(森・原・家畜の守護神)パンPanです。

 パンは神々の使者ヘルメス神の子です。

生まれた時からもじゃで、額(ひたい)にはヤギの角が生え、脚にはヤギの蹄(ひづめ)がありました。

この奇妙な姿に驚いた母親は逃げ出してしまいましたが、ヘルメスは赤ん坊をオリンポス山に連れて行き、大勢の神々に見せました。

これを見た神々はみんな面白がって大喜びしました。

 全ての神を喜ばせたので、ギリシャ語の「すべて」を意味するPanと名付けられたのです。

 pan(すべて)が付く言葉は沢山あります。

panorama(パノラマ、全展望)、pandemic(パンデミック、感染症の大流行)、panperitonitis(パンペリトナイティス、汎発性腹膜炎)、pancytopenia(パンサイトペニア、汎血球減少症)などなど。

  成長して牧神となったパンは、洞窟に住み、森を駆け巡り、茂みに身を隠して、妖精達を襲うのでした。

そして、失敗するとオナニーにふけるという、実に淫乱な牧神でした。

 パンはエコーEchoという妖精にもしつこく言い寄りましたが、エコーが応じなかったため、エコーから、同じ言葉を繰り返す以外の、話す能力を奪ってしまいました。

この逸話から、echoが「反響、こだま」という意味になったのです。

医者が使うエコーという器械も、まさしく音の反響を利用した診断装置です。

 また、パンはシュリンクスSyrinxという妖精にもチョッカイを出しましたが、彼女は逃げだし、川の岸辺の1本の葦(あし)に姿を変えました。

振られてしまったパンは数本の葦を切って葦笛を作り、これをsyrinxと名付けて、悲しい調べを鳴らしました。挿絵(さしえ)のパンも葦笛を吹いています。

この故事からsyrinxが「管」を表す言葉となり、英語のsyringe(シリンジ、注射器)が派生したのです。

 牧神パンは森の木陰でよく昼寝をしていました。

これを邪魔されると、怒って大音響を発して騒ぎました。

これに驚いて、牛や羊が群れを乱して走り出し、人々も狼狽(ろうばい)して一目散に逃げ出すのでした。

 ここから、panic(パニック、恐慌)という言葉が生まれたのです。

現代では、不安障害に分類される精神障害の一種「パニック障害」に悩む患者さんが増加していますね。 

 インフルエンザ予防接種の予診票は当院受付にてお配りしている他、本サイトからもダウンロードできます。予め記入後お持ち下さい。

  ただし、「65歳以上の藤沢市民」は、インフルエンザ・コロナワクチン共に、当院にて専用の予診票に記入して頂く必要があります。ダウンロードはできません。

お知らせ

8月10日(日)から15日(金)まで夏期休業いたします。

院長から一言を更新しました(令和7年6月1日)。

医学の歴史を訪ねて 第56回 ローマ編 その1

12月29日(日)から1月3日(金)まで休診します。

8月13日(火)、14日(水)、15日(木)の3日間、夏期休診させて頂きます。

Message from the Directorを更新しました(Jul 1, 2024)。 

令和6年4月以降、発熱など風邪症状がある方も、電話連絡等は不要となりました。

令和6年3月14日(木)、21日(木)、28日(木)の各木曜日休診します。

4月以降も、毎週木曜日休診します。

3月7日(木)臨時休診します。

2月28日(水)から3月5日(火)まで臨時休診します。3月6日(水)から診療再開します。