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Exploring the History of Medicine, Part 51: Florence, Part 31
令和5年8月1日
ウッフィツィ美術館
15世紀にフィレンツェ共和国の実権を握ったのが、銀行業で財を成したメディチ家のコジモ・デ・メディチでした。
フィレンツェ共和国は16世紀に、さらに拡大してトスカーナ大公国と成りました。
その初代大公(支配者)もメディチ家の一員で、コジモ1世です。
16世紀のコジモ1世は、15世紀のコジモ・デ・メディチとは別人です。
コジモ1世は、行政・司法・立法(議会)を1カ所にまとめ、機能を集中させました。
これが、現在のウッフィツィ美術館です。
かつて官庁街(ウッフィツィUffici、英語ではオフィスoffice)が置かれていた場所だから、「ウッフィツィ美術館」と呼ばれているのです。
1.「春(プリマヴェーラ)」(15世紀)
ボッティチェリの絶頂期の作品です。
べールをまとい、しなやかに踊る女神たち、花で飾り立てた女性、オレンジが実る森、足元の植物など、「春の賛歌」にあふれています。
もちろん、中央に立ち、一際(ひときわ)目立つのは美の女神ヴィーナスです。
オレンジは実を多く付けるので、子宝に恵まれる繁栄のシンボルでもあります。
右端の、青緑色で羽の生えたゼヒュロスは、妖精クロリスに春を呼ぶ風を吹き付けています。
ゼヒュロスはギリシャ神話に登場する西風の神です。
ギリシャ人にとって、西から吹く風は、花を咲かせ、緑をもたらす春の風です。
だから、西風の神ゼヒュロスは青緑色なのです。
ゼヒュロスは彼女を誘拐後、花を咲かせる能力を与えます。
彼女の口から花が咲き出しています。
クロリスの隣にいるのは、彼女を誘拐した罪を悔いたゼヒュロスが神に昇格させたクロリス自身、すなわち、春と花の女神フローラです。
ゼヒュロスはフローラに花園を与えました。
「春」の到来です。
ここでも、四元素説を見ることができます。
古代ギリシャのエンぺドクレスは、世界は土・水・火・風(空気)の四つの要素(四元素)が混じり合ってできており、それが宇宙万物の姿だと考えました。
そして、その宇宙万物が移ろい行くのは、この四元素に「結合させる力(愛)」と、「分離させる力(争い)」という2つの力が働いて、千差万別に変化していくからだと解釈しました。
四元素の一つ「風」が愛によって「春」を呼んだ、というのがこの作品の主題です。
西風の神ゼヒュロスは、暖かい風を吹くだけでなく、恐ろしい罪も犯しました。
彼は、スパルタ王の息子である美少年ヒュアキントスに思いを寄せましたが、太陽神アポロンも同様でした。
古代ギリシャでは、大人の男と少年の同性愛は信頼や絆(きずな)の証(あかし)と見なされ、女性への愛よりも価値が高いと考えられていました。
2人の男性神は少年への愛を競いましたが、ヒュアキントスがアポロンを選んだため、ゼヒュロスは嫉妬(しっと)に狂いました。
アポロンと少年ヒュアキントスが円盤投げをして遊んでいるのを見たゼヒュロスは、アポロンが投げた円盤に突風を吹き付け、少年の額(ひたい)にぶつけました。
少年は真っ赤な血を流して息絶えました。
アポロンはその死を嘆(なげ)き、「花となって私の愛を受けよ!」と叫びました。
血に染まった草の上にアポロンの涙がしたたり落ちると、美しい花が咲きました。
この花は、少年の名「ヒュアキントス」に因(ちな)んで「ヒヤシンス」と呼ばれます。
この故事(こじ)が由来となり、ヒヤシンスの花言葉は「悲しみを超えた愛」とされています。
悲しいけれども、ロマンチックな神話ですね。