令和3年10月1日
サンタ・マリア・デッラ・サルーテ教会
大運河の河口近くにある、丸い大きなドーム(クーポラ)を持つ教会です。
17世紀、ヴェネツィアでペストが猛威をふるい、わずか2年で人口の3分の1が亡くなりました。
その後、感染が鎮(しず)まったことを聖母マリアに感謝して、ヴェネツィア政府がロンゲーナに教会の設計を命じました。
彼は、50年かけて建築を完成させました。
真っ白な大理石が八角形を描き、その上に大きなクーポラが載(の)り、太陽と運河の水に照らし出されて輝く姿は、この街の象徴です。
ヴェネチアン・バロック建築の傑作です。
現地では、「サルーテ(Salute)」と一言で呼ばれています。
Salute (救助、救済)の語源はラテン語のsalvare (サルヴァーレ、「救う」)です。
salvareから、英語のsalvage(海難救助、救命)、salvation (救い、救済、救助)、salvo (賛辞、慰め)、salute(挨拶、敬礼、乾杯)などが派生しました。
中米にあるエル・サルバドルEl Salvador(救世主)という国名、その首都のサン・サルバドルSan Salvador (聖なる救世主)、サルビアsalvia(人を救う花)なども、salvareから派生した言葉です。
Elはヘブライ語で「神」「力」「強さ」を意味する言葉で、ユダヤ教の神ヤハウェYahweh(日本語ではエホバ)と同じです。
従って、エル・サルバドルEl Salvadorとは救い主、すなわち救世主イエス・キリストを指しています。
聖書に登場する人物には、インマヌエルImmanuel(エマヌエル)、エリザべトElisabeth(エリザベス)、エリヤElijah(エリー)、ミカエルMichael(マイケル、ミッシェル)、サムエルSamuel(サム)、ダニエルDaniel(ダン、ダニー)、ガブリエルGabrielなど、El-や-elを持つ名前が多いのです。
また、Elは、ギリシャ神話の太陽神ヘリオスHeliosと同じと考えられています。
イエスが十字架にかけられ息絶えた時に、日食が起きたと伝えられているのも、イエスが太陽神に繋がる存在であることを示しています。
乾杯をする時、スペインではサルSalud、イタリアではサルーテSalute、ポルトガルではサウージSaude、フランスではサンテSante、ドイツではプローストProst、アメリカではチアーズCheersと叫びます。
これらには、みんな「健康を祈って」という意味が込められています。
イタリアでは、誰かがクシャミをすると、周りの人が「サルーテ」と言うのがエチケットだそうです。
ところで、イタリアやフランスでは、サルーテSaluteやサンテSanteより、もっと砕(くだ)けた乾杯のかけ声があります。
「チンチン」です。
イタリアではCin-cin、フランスではTchin-tchinと表記されます。
これは中国語の「請請(ちんちん)(さあ、どうぞ)」をイタリア人が「乾杯!」と勘違いして、母国に伝えたのが始まりだそうです。
「チンチン」の発音が当時のヨーロッパ人には、グラスが触れ合う時の「カチン」という音を連想させたのが、広まった原因だと言われています。
私も今度の飲み会では、ご婦人方と声を合わせて「チンチ~ン!」と叫びます。