令和3年7月1日
ドゥカーレ宮殿 Palazzo Ducale
ヴェネチア共和国総督(ドージェ)の政庁(合同庁舎)として9世紀に建てられました。その後、何度か火災に遭(あ)い、現在の建物は15世紀の物です。
ヴェネチア・ゴシック様式の巨大建築です。
ヴェネチア共和国の図抜けた富と権力を象徴しています。
ちなみに、ゴシック時代とは12世紀後半から15世紀を指し、この時代の建築は、伸びやかで装飾が多いのが特徴です。
ビザンチン風の豪華なアーチが続く柱廊(ちゅうろう)や、繊細な飾りの施(ほどこ)された小尖塔(しょうせんとう)、壁面に菱形(ひしがた)を描くピンクと白の大理石など、異国情緒にあふれた外観です。
内部はいくつもの評議員の部屋、大会議室などがあり、ティントレット、ヴェロネーゼなどのすばらしい絵画が飾られています。
言わば、巨大な美術館です。
どの部屋でも、金箔(きんぱく)を施した化粧漆喰(しっくい)と華麗な絵画が、ヴェネツィア共和国の富を象徴しています。
その代表が、「元老院の間(ま)」の天井に描かれたティントレットの「ヴェネツィア称揚(しょうよう)」や、「謁見(えっけん)の間」の天井のヴェロネーゼによる11枚の板絵です。
総督(ドージェ)のDogeとは、イタリア語で国家元首を指す言葉の一つで、ヴェネツィアをはじめ、ジェノヴァ、ピサなど海洋共和国の元首がドージェと呼ばれます。
doge(ドージェ)の語源はラテン語dux(ドゥクス) で、イタリア語ducaドゥカ(公爵)や英語 dukeデューク(公爵)もこれから派生しています。
Palazzoは英語ではPalace(宮殿)ですから、Palazzo Ducaleとは「公爵の宮殿」という意味です。
公爵はヴェネツィア以外にも大勢いますから、ドゥカーレ宮殿と呼ばれる館もヴェネツィアだけでなくヨーロッパ各地にあります。
ヴェネツィア共和国のドージェは、ドージェだけが着用を許されたコルノ・ドゥカーレ(Corno ducale「公爵の角(つの)」)と呼ばれる、後部に角(つの)状の突起が付いた独特の帽子を被(かぶ)っていました。
corno(コルノ)とは「角(つの)」を意味するイタリア語で、ラテン語や英語ではcornu(コルヌ)です。
解剖学でも、突き出た形状の部分をcornuと呼び、子宮・仙骨・尾骨・甲状軟骨・脊髄・大脳半球側脳室など体中にcornu(角(かく))と呼ばれる部分があります(子宮角(しきゅうかく)、仙骨角(せんこつかく)、等々)。
ギリシャ神話を知るヨーロッパ人には、cornu・corno(角(つの))という言葉が、ゼウス(全能の神)が赤ん坊の時に乳を与えたというヤギの角(つの)を連想させました。
そのため、角(つの)は豊饒・力・勇気を象徴し、欲しい物を何でも与えてくれる御利益(ごりやく)があると考えられていました。
つまり、「公爵の角(つの)」はドージェの富や権力を見せつける小道具として使われた訳です。
また、英語のdukeデューク(公爵)が複数形 dukesデュークスになると、拳(こぶし)やゲンコツを意味するそうです。
昔も今も、偉い人は拳を振り上げて演説するからでしょうね。
次号に続く