平成31年3月1日
前号では、歌詞の中の「キチガイ」という言葉について、言い換えや音消しが行われた例を紹介しました。
介護の世界でも、言葉狩り(言葉外(はず)し)が蔓延(まんえん)しています。
もはや旧聞(きゅうぶん)に属しますが、平成15年11月、福岡県太宰府(だざいふ)市で、外出したままの認知症患者への対処法を体験する「声かけ・見守り模擬(もぎ)訓練」が行われました。
前年まで「徘徊(はいかい)模擬訓練」という名称だったのですが、その年から「徘徊」という言葉を外したのです。
企画・運営担当者は、
「『徘徊』は目的もなく彷徨(さまよ)い歩くという意味だが、外を歩き回る認知症高齢者は意味なく歩いているのではない。
『子供を迎えに行く』、『晩ご飯の準備をするために自宅に帰る』などの理由があるのだ。
『徘徊』という言葉を使う事が、認知症への理解の妨(さまた)げにもなり得る。
当事者の尊厳に配慮して、『徘徊』を使わない事にした」
と述べました。
市民からは、
「『徘徊』という言葉を使ってこそ緊急性が伝わる」
「これまでも『徘徊』を肯定的に使ってきた(認知症患者の尊厳を傷つける意図はない)」といった意見が多く出されたのですが、市側が「徘徊」外しを押し通しました。
太宰府市以外でも、福岡県大牟田(おおむた)市や熊本県山鹿(やまが)市が「徘徊」を訓練の名称から外しました。
佐賀県三養基(みやき)郡基山(きやま)町も「『徘徊』は適切な言葉とは言えない」として、最初から訓練の名称には用いない事にしました。
認知症介護研究研修東京センターの永田久美子研究部長は、
徘徊』という言葉が、家族が眠らないで患者の行動を見守り続けるか、施設に入れてしまうかの、どちらかを選ばなければならない事態を招いてしまった」と「徘徊」外しに賛同しています。
また、ニッセイ基礎研究所の研究員、山梨惠子氏も「『徘徊』という言葉は、本人の目的の有無にかかわらず、『認知症の人の行動には意味がない』というレッテルを貼る事に繋(つな)がる」と述べて、「徘徊」外しに同調しています。
「徘徊」という言葉を外す言葉狩りは、残念ながら、日本全国に広がっています。
名古屋市のある認知症対応型デイサービスの所長は、「認知症の人は『徘徊』ではなく『一人歩き』をしている。問題行動ではない」などと述べています。
また、神戸市のある社会福祉法人では、何と30年前から、「徘徊」という言葉を「お出かけ」「お散歩」と言い換えているのだそうです。
次号に続く