平成30年11月1日
そもそも、個人情報保護法(以下、本法と約す)とはどのような法律なのでしょうか?
本法第1条に制定の目的が述べられていますので、要約します。
高度情報通信(IT:Information Technology)の進展に伴って、個人情報の利用が著しく拡大しています。
個人情報をコンピューターで一括管理して利用する事は、何冊もの紙の台帳に書いて管理するよりも遥(はる)かに便利です。
しかし、コンピューター内の個人データを悪用すると、個人に回復不可能な損害を及ぼす恐れがあります。
そこで、個人情報の取り扱いを適正に行うための指針を国が示す必要が生じました。
個人情報を取り扱う事業者が遵守(じゅんしゅ)すべき義務を定める事によって、個人の権利・利益を保護する。
これが、本法の目的です。
本法第23条に、「個人情報取り扱い事業者は、原則として、あらかじめ本人の同意を得ずに、個人データを第三者に提供してはならない」と書かれています。
ただし、あくまで原則です。
同時に、例外規定が多く設けられているのです。
例外の一つとして挙(あ)げられているのが、「人の生命、身体または財産の保護のために必要があり、本人の同意を得るのが困難な場合」です。
前号で述べた、当院の患者さんの例は、この「人の生命、身体の保護のために必要」な連絡でした。
しかも、急いで本人に伝えなければならない用事で電話しているのですから、「本人の同意を得てから」などと悠長(ゆうちょう)な事を言っている場合ではありません。
当院からの電話に出た大学職員の言動は、まさしく過剰反応です。
おそらく、例外規定をご存じなかったのでしょう。
このように、個人情報保護法に抵触(ていしょく)する事を恐れるあまり、過度に萎縮した対応をする「過剰反応」が日本中に蔓延(まんえん)しています。
本法施行後、私が所属するテニスクラブは会員名簿を廃止しました。
私の母校である東京医科歯科大学医学部の同窓会名簿も虫食い状態です。
特に、若い卒業生の頁は空白だらけです。
私の家内が卒業した看護学校には同窓会名簿そのものが存在しません。
本法は、個人の権利・利益を保護しつつ、個人情報を有効に活用する事を目的にしているのであって、過剰な保護を要求しているのではありません。
しかし、残念ながら、個人情報に対する過保護が拡散・定着し続けており、今や匿名(とくめい)社会・覆面(ふくめん)社会の様相を呈しています。
過剰反応によって、地域交流や事業活動も萎縮・不活発となり、社会問題になっています。
次号に続く