平成29年5月1日
前号で述べたように、神奈川県受動喫煙防止条例は屋内完全禁煙という観点から見て極(きわ)めて不十分です。
その理由の続きを述べます。
第2に、小規模な飲食店・宿泊施設、パチンコ店には、禁煙にしても分煙にしても努力義務しかないのですから、結局、タバコの煙は野(の)放(ばな)しです。
私が時々行く小(こ)料理屋やスナックでも、他のお客さんから流れてくるタバコの煙で、せっかくの料理や旨い酒が台無しです。
着ている服にも煙が染み付いて臭くなるため、クリーニングに出さなくてはなりません。
第3に、「受動喫煙防止条例」という立派な名前の割には抜け穴が多く、県民へ禁煙意識を浸透させる効果も不十分です。
罰則が適応される事も極めて希です。
当院の禁煙外来を受診する患者さんに訊くと、職場が神奈川県内であるにも拘わらず禁煙になっていないという返答が多いのです。
そのような患者さんに、私は「神奈川県内の職場は禁煙にする義務があります。
守らないと、社長も社員も罰金を科せられますよ。
もし、上司や同僚の喫煙で社員が迷惑を被っているのでしたら、神奈川県庁の保健福祉局 保健医療部 健康増進課 たばこ対策グループ 電話 045-210-5025(直通)にすぐに電話して訴えて下さい」と助言します。
しかし、私が言ったとおりに実行した方は皆無です。
上司の機嫌を損(そこ)ねて職場に居づらくなるのを恐れるためでしょう。
県民の禁煙意識の低さを物語っています。
このように問題の多い神奈川県受動喫煙防止条例ですが、これを改正するチャンスがありました。
この条例には「3年毎に見直す」という付帯条項があり、神奈川県はこの条例施行から3年経(た)った平成25年4月に、見直しのための有識者会議を設置したのです。
私をはじめ神奈川県医師会関係者は、受動喫煙の更なる規制強化を期待しました。
すなわち、公共性が高い学校・病院・役所はもちろん、飲食店、ホテル・旅館、職場など、人が集まる室内空間はすべて禁煙にすべきであり、守らなければ厳罰に処すという内容の条例改正を望んだのです。
しかし、残念ながら、規制強化は見送られました。
平成28年には2回目の見直し作業が行われ、「修正版」の条例が公表されました。
けれども、数カ所微修正されただけで、屋内全面禁煙に繋(つな)がる規制強化や罰則強化は一切行われませんでした。
またしても、期待外(はず)れに終わったのです。
私は、日本社会にはびこるタバコ利権がその背景にあると確信しています。
百害あって一利なしのタバコが、強力な利権構造によって守られている実体を、皆様に知って頂くのが本稿の目的です。
神奈川県の受動喫煙防止条例がより強固になると同時に、東京都や他の都道府県にも同様の条例が制定される事を、私は切に期待します。
そして、3年後の東京オリンピック開催までに、県単位の条例ではなく、「受動喫煙防止法」という国家の法律が成立するよう、世論を盛り上げたいと思います。
私達日本人だけではなく、世界中から集まるお客さんが、タバコの煙に悩まされずに済むのです。
どうです?素晴らしいでしょう?
究極的には、日本からタバコがなくなる日を夢見て、次回以降も本稿を続けます。
次号へ続く
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