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Exploring the History of Medicine, Part 51: Florence, Part 31
平成28年8月1日
2,000年という気質研究の歴史において、血液型と気質(性格)の関連について初めて研究(?)したのは、戦前の日本人でした。
東京女子高等師範学校(現在のお茶の水女子大学)の古川(ふるかわ)竹二(たけじ)教授です。
彼は、1920年代から30年代にかけて、血液型と気質の関連を研究(?)し、論文や書籍を残しました。
当時の最新医学であるABO式血液型が4種類から成っていたため、これらと「四気質説」を結びつけるという、奇想天外な事を思いついたのです。
つまり、彼は「四気質説」にABO式血液型を無理やりこじつけた訳です。
大日本帝国陸軍はこの研究(?)の影響を受け、ABO式血液型によって将兵の気質・能力を分類し、部隊編成の際に最も適した任務に当てようと考えました。
そして、各部隊から将兵の調書を集め実戦に役立てようとしましたが、期待した結果は得られず、1931年に中止されました。
その後も、多くの研究者が古川説を追試しましたが、ABO式血液型と性格(気質)との間に、関連性を見い出す事は出来ませんでした。
古川教授は1940年に亡くなり、その珍説(ちんせつ)は敗戦後の混乱の中、忘れられていきました。
ところが、1970年代に能見(のうみ)正比古(まさひこ)氏が『血液型でわかる相性(あいしょう)』(1971年)、『血液型人間学』(1973年)を相(あい)次いで出版しました。
これをマスコミが大々的に取り上げたため、血液型と性格を関連付ける説が日本中に広まったのです。
能見氏の説は古川教授の枠組みを踏襲しています。
古川教授は「四気質説」を発想の原点としていますから、能見氏らの血液型別性格分類は「四気質説」に端(たん)を発していると言えます。
ヒポクラテスもガレノスも、まさか2,000年の時空(じくう)を超えて、ギリシャ・ローマ時代には知られていなかった東洋の島国で、こんなに多くの人々が自分たちの理論を受け入れてくれるとは思ってもいなかったでしょう。
能見氏の著書は、芸能人、スポーツ選手、政治家を例に挙(あ)げて説明しています。
教育や企業経営への応用の提言もしています。
幅広い読者層に対して分かり易い内容です。
現在出版されている血液型・性格関連の書籍の大部分は、能見氏の著書を模倣(もほう)しています。
血液型と性格との関連が科学的に証明されるのなら、素晴らしい事です。
なぜなら、心理学の領域では極めて珍しい事に、日本の研究者が世界の最前線に立つ事ができる研究領域となるからです。
しかも、世界初の「性格と遺伝との関連の証明」という事になります。
しかし、残念ながら、そうはなりませんでした。
「ネス湖に怪物ネッシーが存在する」事はネッシーを捕まえる事で証明できますが、「ネス湖にネッシーは存在しない」事を証明するのは並大抵ではありません。
血液型と性格の関連についても、同様です。
「関連がない」事は直接証明する事ができません。
しかし、今日(こんにち)まで、統計学的に血液型と性格に「関連がある」事を証明した研究は皆無(かいむ)です。
そして、今後も、血液型と性格との間に関連を証明する事は不可能であろうと予想されます。
次回以降にその理由を述べます。
次号へ続く