平成27年12月1日
前号の末尾で触れた「性差医療」と「女性外来」について、説明します。
読者の中には「性差医療」という言葉を聞いた事がない方がいるかも知れません。
これは新しい概念で、1990年代にアメリカ政府が提唱し、多額の予算を投入して推し進めてきました。
例えば、痛風は男性に多く、膠原病は女性に多い疾患です。
このように、性別によって発症率が圧倒的に異なる疾患が数多く存在します。
また、狭心症や心筋梗塞は、男性では30・40代から発症しますが、女性では閉経以降、すなわち60・70代に多く発症します。
このように、性別によって発症年齢が大きく異なる疾患が数多く存在します。
さらには、少子高齢化に伴い多くの女性達が各職場に進出しており、それによる健康障害も増えています。
社会的な地位と健康との関連が性別により異なる可能性も指摘されています。
以上のように、性別による差違に着目して研究し、その結果を疾病(しっぺい)の診断・治療・予防に活かす事を目的とした医療が「性差医療」と呼ばれます。
男女の性による違いを考慮した医療という意味です。
「性差医療」の普及を背景として、2001年に国内初の「女性外来」が千葉県立東金(とうがね)病院に開設されました。
そして、瞬く間(またたくま)に、47都道府県のすべてに400以上の女性外来が誕生し、40以上の大学病院に女性外来が設置されました。
まるで、はやり文句やヒットソングのように、女性外来が広がっていくという、女性外来ブームが到来したのです。
我が母校である東京医科歯科大学医学部附属病院にも「周産(しゅうさん)・女性診療科」という女性外来が誕生しました。
しかし、その実態は産婦人科であり、わざわざ「女性診療科」と名付ける必要などないのです。私に言わせれば、我が母校も流行に乗り遅れまいとブームに便乗しただけです。私のような頭の古い卒業生としては、「産婦人科」の看板を守って欲しかったと、残念な気持ちでいっぱいです。
流行に乗せられて人のマネをするなんて情けない、とさえ思います。
女性外来とは「どんな症状でも、どんな疾患でも、女性患者の悩みは女性医師が聞きますよ」という謳(うた)い文句を看板に掲(かか)げた外来です。
女の気持ちやカラダは女にしか分からない、という訳です。
「心の悩みや身体(からだ)の不調を女性医師に相談したい」という女性患者の心情は分からなくもありません。
しかし、「女性患者は女性医師が診(み)ますよ」をセールスポイントに「女性外来」を売り出すのが、正しい医療の姿でしょうか?
私は甚(はなは)だ疑問に感じます。
次号に続く