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Exploring the History of Medicine, Part 51: Florence, Part 31
平成27年11月1日
レストランに食事をしに来たお客さんに、ウェイターがいきなり「今からアナタのお尻に指を入れます」と言ったら犯罪です。
しかし、前号の事例は、救急病院の当直医が急患を治療するために坐薬を投与するという話です。
男の医師が女の患者に気を遣って、「自分が入れても良いか?看護婦に入れさせた方が良いか?どっちにしますか?」と尋ねる事自体がおかしいと、私は思うのです。
さらに、患者さんが「男性医師が女性の私に気を遣ってくれた」と感謝している事も奇異に感じます。
もちろん、救急病院を受診する患者さんも、患者である前に女性(あるいは男性)です。そして、女性(あるいは男性)である前に人間です。
私は、患者さんの女性(あるいは男性)としての人権や、人間としての尊厳を踏みにじっても良いと主張しているのではありません。
医師が患者さんの診察をする際には、礼節を守り、真摯な態度で接しなければいけないのは当然です。
だからと言って、「自分が入れるか?看護婦に入れさせるか?どちらにしますか?」と患者さんに問わねばならないとは、どうしても思えないのです。
もし、私が救急病院の医師ならば、診断がついたら、患者さんに「自分がやるか?看護婦にやらせるか?」と質問などせずに、直ちに治療を行います。
自分がやるか、看護婦にやらせるかは、問題ではないのです。
どちらでも構いません。
「男の自分が坐薬を入れれば、女の患者さんが恥ずかしいだろうから、看護婦にやらせよう」と考える事自体が、救急現場で働く医師としては問題だと思うのです。
ましてや、痛みに苦しむ患者さんに「自分と看護婦のどちらが良いか?」と質問するなど、私には到底考えられません。
さらに、患者さんから「看護婦に替わってくれてありがとう」と感謝(?)されたら、私ならむしろ不快に感じるだろうと思います。
そうではなく、「手早く診断・治療してくれてありがとう。おかげで楽になりました」と言って頂いた方が、よほど嬉しいです。
自分が診断・治療した患者さんが回復してくれれば、これこそが医師としての喜びです。その上、感謝の言葉まで添えられたら、最高の幸せです、少なくとも私にとっては。
私は時代遅れの、頭が固い人間なのかも知れません。
当院は「親切な応対、的確な診断、迅速な治療」をモットーとしていますが、男性医師が女性患者に坐薬を入れたら「親切な応対」に反するとは思いません。
最近、新聞・書籍・テレビなどで、「性差医療」や「女性外来」という言葉をしばしば見聞きします。
女性患者の「同性の医師・医療者から診察・処置を受けたい」という気持ちを否定するつもりはありません。
しかし、性別にこだわっていては、医療の本質から外れてしまうと思うのです。
次号に続く