ステロイド(続き)
2015年8月1日
ステロイド外用剤はアトピー性皮膚炎や接触性皮膚炎(かぶれ)などの皮膚炎に対して、主に炎症を沈静化させる目的で使用します。
薬剤である以上、ステロイド外用剤にも当然副作用はあります。
臨床効果と副作用は、同じ薬理作用によって生じる訳ですから、表裏一体(ひょうりいったい)の避けがたい現象と言わざるを得ません。
副作用には、塗(ぬ)った皮膚局所に現れる副作用と、吸収されて全身に現れる副作用の2つがあります。
外用剤を常識的に使っている限り、全身的な副作用(糖尿病、骨粗鬆症、ムーンフェイス(満月様顔貌)(まんげつようがんぼう)など)は起こり得ません。
ましてや、一部の著書に見られる「ステロイド外用を続けると必ず廃人になる」との主張は荒唐無稽(こうとうむけい)な虚言(きょげん)です。
ちなみに、常識的な使い方とはどのようなものでしょうか?
ある研究によると、ステロイド軟膏10gを3カ月間、毎日皮膚に塗り続けると(つまり合計900g塗ると)、一過性に副腎機能が低下したそうです。
当院で処方するステロイド軟膏は1本5gです。
これを毎日2本ずつ塗り続ける人は当院の患者さんにはいません。
私がそれほど大量のステロイドを処方する事はないからです。
また、当院で処方するステロイド外用剤1本(5g)には2.5mgの糖質コルチコイドが含有されています。
これは、私達の副腎が1日に分泌する糖質コルチコイド(約20mg)の10分の1程度です。つまりステロイド軟膏を10本まとめて舐(な)めてしまったとしても、もともと副腎が分泌する正常量と同じであり、何ら有害事象は生じないのです。
局所的副作用の内、痤瘡(ざそう)(ニキビ)、潮紅(ちょうこう)(赤ら顔)、皮膚萎縮(ひふいしゅく)(シワ)、萎縮性皮膚線条(いしゅくせいひふせんじょう)(スジ)、毛細血管拡張、多毛、紫斑(しはん)(皮下出血)、真菌感染症(水虫)などは時に生じ得ます。
しかし、いずれもステロイドの中止あるいは適切な処置により回復します。
従って、むしろ安全性は高い外用薬だと言えます。
また、皮膚炎に対してステロイド外用剤を使用しても色素沈着(シミ)が残る事がありますが、皮膚炎に伴う色素沈着であって、ステロイドによるものではありません。
結局、適切な強さのステロイドを適切な量だけ用いれば、ステロイドほど有効な外用薬は他にありません。
安全性に関しても、他の薬剤に比べ、むしろ優れているのです。
アトピー性皮膚炎などの治療の途中で、ステロイド外用を中断すると、当然ながら症状は悪化します。
特に、症状が増悪している最中に突然中止すると、急激な皮膚症状悪化を来してしまい、これを「ステロイドによるリバウンドだ」と非難する人がいます。
あるいは、「ステロイドにはリバウンドがあるから使いたくない」と、訳(わけ)知り顔で、のたまう御仁(ごじん)もいます。
しかしながら、そもそも薬理学に「リバウンド」なる用語は存在しません。
"rebound"を英和辞書で引くと「反動、反発」という訳語が当てられています。
恐らく、「ステロイドにはリバウンドがある」と非難する人達は、ステロイドを止めて皮膚炎が再燃する事を「リバウンド」と称しているのでしょう。
でも、ちょっと待って下さい。
アトピー性皮膚炎という疾患そのものが、増悪(ぞうあく)・寛解(かんかい)を繰り返し、慢性・反復性経過を辿(たど)る湿疹なのです。
良くならないうちに治療を中断すれば増悪・再燃(さいねん)するのは当たり前です。
これをステロイドのせいにするのは、お門(かど)違いというものです。
次号に続く