平成27年5月1日
久しぶりに健康情報に関する話題を提供します。
ステロイドという言葉を一度も聞いた事がないという方は、恐らくいないでしょう。
医師だけでなく、世間一般に広く知られている、ある種の物質・薬の総称です。
では、皆さんはこの薬について、どんな感情を抱いていますか?
「怖い薬だ」
「友達が使うなと言っている」
「一旦使い出すとやめられなくなると、テレビで言っていた」
「ステロイドを処方する医者はヤブ医者だ」
このように思っている方が多いのではないでしょうか?
これらは全て間違った考えです。
このようにステロイドを特別に忌避(きひ)するのは、他に類を見ない日本特有の現象です。
私はこの現状を憂(うれ)い、打破したいと思っています。
そこで、今月から数回に亘(わた)って、皆さんのステロイドに対する誤解を解き、正しい理解を広めるために、できるだけ分かり易く解説します。
ステロイドとはステロイド核(シクロペンタノヒドロフェナントレン環)という共通の化学構造を有する物質の総称です。
決して毒物や劇薬ではありません。
もともと、私達の体内に広く存在し、私達が生きていくのに必要欠くべからざる物質なのです。
体内に最も大量に存在するステロイドは、皆さんもよくご存じのコレステロールです。コレステロールは細胞膜の主要な構成成分です。
身体の組織は細胞の集まりですから、コレステロールは私達の身体が存在するために必須の物質です。
言い換えれば、私達の身体はステロイドからできているという事です。
よく知られているように、コレステロールは血液中にも存在し、これが多くなると高脂血症という疾患で、動脈硬化の原因となります。
この他、コレステロールは脳、神経、副腎、肝臓、腎臓、皮膚などに多量に存在します。
コレステロールは、体内の様々な臓器で、生理活性物質の原料になります。
肝臓では胆汁酸が、卵巣では女性ホルモンや黄体ホルモンが、精巣では男性ホルモンが、副腎皮質では糖質(とうしつ)コルチコイド(コルチゾール)やミネラルコルチコイド(アルドステロン)が、コレステロールを原料として作られます。
これらの物質もステロイド核を有していますので、当然ながらステロイドです。
この内、糖質コルチコイドには抗炎症作用と免疫抑制作用が非常に強い事が分かり、すぐにリウマチなどの治療薬として使われるようになりました。
そして、この50年間に様々な合成ステロイド剤が開発されました。
医療分野でステロイドと言えば、通常、副腎皮質ホルモン、特に糖質コルチコイドを指します。
昨今、「ステロイドは怖い」という、ステロイドに対する不信感(「ステロイド恐怖」と呼ばれます)が、マスコミやインターネットを通じて一般の人々に広く浸透しています。そして、これに便乗して商品や特殊療法を宣伝・販売する悪徳商法(「アトピービジネス」と呼ばれます)が蔓延(まんえん)しています。
当院を受診する患者さんの中にも、ステロイド恐怖に毒された人や、アトピービジネスに乗せられている人が大勢います。
しかも、そのような人々は、信仰とも言える固い信念を持っており、覆(くつがえ)すのは非常に困難です。
次号に続く