平成26年10月1日
「尊厳死」と似た概念で、「安楽死」という言葉があります。
「安楽死」は「尊厳死」より古くから用いられていた言葉ですが、立場によって見解が異なり、明確な定義が確立されていません。
「安楽死」の種類に関しても、観点により複数の分類が存在します。
行為と死の因果関係の観点からは、「安楽死」は次の3つに分類されます。
1.積極的安楽死(作為(さくい)安楽死)
医師が薬物の投与を患者に対して行い、その行為によって死に至らしめる事です。
これは現在の日本では合法化されておらず、殺人行為として処罰の対象となっています。一般に「安楽死」と言われるものは、この積極的安楽死を指す場合が多いのです。
2.消極的安楽死(不作為(ふさくい)安楽死)
医療行為を中止する事によって結果的に患者を死に至らしめる事を意味しています。
代表的な消極的安楽死としては、人工呼吸器を装着しなければ確実に死に至る状態でありながら装着しないという場合が挙げられます。
延命処置を行わない事による死という点から、多くは「尊厳死」と同義で用いられます。
消極的安楽死は、患者の延命拒否の意思と自己決定権を尊重するという理由から、これまで慣習的に正当性を与えられてきました。
3.間接的安楽死(結果安楽死)
患者が感じている苦痛を除去するために行った行為が結果として患者の生命を短縮させる事になってもやむを得ない場合、この行為を間接的安楽死と呼びます。
死期を早めるかも知れない麻薬などの投与や処置を指します。
これも、患者の自己決定権を尊重するという理由から、これまで罪に問われる事はありませんでした。
上に述べたように、「安楽死」と言えば、一般的に積極的安楽死を意味します。
「安楽死」を法で定めているのは、世界でもオランダ、ベルギー、ルクセンブルグ、米国オレゴン州などごく少数です。
1991年(平成3年)に起きた「東海大学付属病院事件」に対して1995年(平成7年)に横浜地方裁判所が下した判決では、積極的安楽死として認められるための条件として以下の4つを挙げました(事件の詳細は本稿の目的から外れるため割愛します)。
1.患者が耐え難く激しい肉体的苦痛に苦しんでいる事。
2.患者は死が避けられず、その死期が迫っている事。
3.患者の肉体的苦痛を除去・緩和するために方法を尽くし、他に代替手段が無い事。
4.生命の短縮を承諾するという、患者の明白な意思表示がある事。
これら4つの条件をすべて満たしていると判断された事件は未だにありません。
現在の日本で積極的安楽死が認められる可能性は限りなくゼロに近いのです。
従って、日本では「(積極的)安楽死」という言葉が肯定的に用いられる事は無くなり、代わりに「尊厳死」という言葉が用いられるようになったのです。
次号に続く