平成26年8月1日
昨年の6月、厚生労働省がHPVワクチンの接種勧奨を控える勧告を出しましたが、その前日、WHO(世界保健機関)の「ワクチンの安全性に関する諮問委員会」が次のような公式声明を発表しました。
1.世界各国でHPVワクチンは1億8,000万回以上接種されているが、安全性に関して大きな懸念はない。
2.副反応の一つである失神については、多感な時期にある思春期女子を接種対象とする事に起因する可能性が高い。
3.副反応のめまい、動悸、失神、意識低下、脱力感などは心因反応である。
4.日本から報告されている慢性疼痛の症例に関して、HPVワクチンが疑わしいとする理由はほとんどない。
5.妊娠中にHPVワクチンを接種しても、妊娠継続に有害な事象は発生していない。
イギリスの医薬品庁の公表でも、400万回以上のHPVワクチン接種の結果、安全性に問題は無いと結論されています。
アメリカの疾病対策予防センターも、HPVワクチンによる有害事象は対照群と比べて有意差がなく、接種の推奨に変化はないと述べています。
HPVワクチンはパピローマウィルスの本体であるDNAを含まないため、感染性はありません。接種局所の疼痛(とうつう)・発赤(ほっせき)・腫脹(しゅちょう)が主な有害事象として挙げられるものの、このワクチンに固有な重篤(じゅうとく)な全身反応は極めて少ないのです。
全身性の副反応として注意すべきは失神です。
これは、注射の痛み・恐怖・興奮などの刺激が迷走(めいそう)神経を介して中枢)(ちゅうすう)に伝わり、心拍数や血圧が低下する事によって生じます。
血管迷走神経反射と呼ばれ、思春期女子に多い事が知られています。
注射への恐怖心が強い人はベッドに寝かせてから接種する等の工夫をすれば良いのです。
日本はワクチン後進国です。
諸外国から麻疹・結核の輸出国と非難され、風疹流行のためアメリカから渡航注意国に指定されてしまいました。
そして、今度は「副反応の発生頻度がより明らかになるまでの間、HPVワクチンの接種勧奨を控える」という、体(てい)たらくです。
全世界で1億8,000万回以上、我が国だけでも約900万回の接種データの蓄積がありながら、さらに何が明らかになるのを待つと言うのでしょうか?
私は、政府が「人の噂も75日」と、騒ぎが収まるまでの時間稼ぎをしているだけだと思います。政府は直ちに接種勧奨を再開すべきです。
性交を経験済みの女性も、HPVに感染しているとは限りませんから、HPVワクチンを接種する意義があります。
もし、既にHPVに感染していても、ワクチンが害になることはありませんし、感染していない型のHPV感染をワクチンで予防する事ができます。
従って、接種前にHPV感染の有無を調べる必要はありません。
ただし、ワクチンには長期間持続しているHPV感染を排除する力はありませんから、年齢が上がるにつれて、その予防効果は減弱します。
10代では70%ある予防効果も、20~30歳では50%に、45歳では30%程度に落ちると推定されています。やはり、なるべく若いうちに接種した方が良いのです。
そして、HPVが性行為によって感染することが明らかなのですから、男子にも接種するべきです。
最後におさらいです。
女性1,000人から成るグループが2つあります。
Aグループ:全員にHPVワクチンを打ちます。重篤な副反応は1人も起きません。
Bグループ:誰もHPVワクチンを打ちません。その結果、Aグループに比べて、子宮頚癌に罹(かか)る者が17人増え、子宮頚癌で死ぬ者が4人増えます。
あなたは、自分の娘さんをどちらのグループに入れますか?
賢明なる読者諸氏(当院の職員も含めて)は、Aグループを選択されるよう期待します。
今回で、子宮頚癌ワクチンについての考察を終わります。