平成26年6月1日
本欄の目的が、HPVワクチンの効用と副反応を公平に見比べて、正当に判断する事にあると繰り返し述べました。
リスクの情報に接した際に、リスクがあるか・ないかではなく、その程度はいかほどなのか?という定量的な視点を持つ必要があります。
ワクチンの副反応についても同様です。
効用と副反応を定量的に比較する必要があるのです。
そもそも、どんなものについてであれ、「絶対に安全である」事をデータによって証明する事は原理的に不可能です。
100%安全、危険(リスク)がゼロである事などあり得ないのです。
とかく、我々日本人は、現実にはあり得ないゼロリスクをひたすら求める傾向があります。小生の大学同級生、池田正行氏(現、香川大学医学部客員研究員、米国内科学会上級会員)はこれを「ゼロリスク探求症候群」と名付けています。
リスクの大きさとその根拠を伝えずに、やたらとリスクの存在のみを強調したら、正しい判断はできません。
昨年6月の厚生労働省のHPVワクチン勧奨中止勧告は、まさしく、ゼロリスク探求症候群に陥(おちい)った腰抜け役人の仕業(しわざ)です。
ゼロリスクなどあり得ないのですから、リスクの大きさを統計に基づいて評価・検討する必要があるのです。
前々回と前回に、私は以下の統計を明らかにしました。
女性1,000人に子宮頚癌予防ワクチン(HPVワクチン)を打つと、その内17人が子宮頚癌に罹(かか)らずに済み(罹患(りかん)回避率0.016544)、4人が子宮頚癌で死なずに済みます(死亡回避率0.003906)。
一方、2つのHPVワクチン(サーバリックス、ガーダシル)を延べ8,646,147人に接種した結果、接種と関連あると考えられる重篤(じゅうとく)な副反応が66人に生じました(発生率は0.000007633)。
死亡はゼロです。
この統計から以下の結論が導き出されます。
HPVワクチンにより、重篤な副反応を生じる可能性の2167倍(0.016544/0.000007633)の確率で子宮頚癌罹患を予防でき、512倍(0.003906/0.000007633)の確率で子宮頚癌による死亡を防止できます。
HPVワクチン接種をためらう方は、この数値を見て冷静に考えて欲しいと思います。
心理学に「プロスペクト理論」という概念があります。
リスクがゼロである事と、極微小のリスクが存在する事の間には、心理的に大きな違いがあるというのです。
極微小のリスクであっても人はそれを過大評価し易く、リスクをどんなに削減してもゼロにしない限り人は満足しないのです。
「たとえ、滅多(めった)に起こらない副反応でも、本人にすれば100%だ」という意見を耳にする事がよくあります。
まさしく、これがプロスペクト理論に該当する心理です。
次号へ続く