平成26年1月1日
明けましておめでとうございます。
今年も、面白く、ためになる話題を提供しますので、お付き合い下さい。
一般向けの本には、ジェンナーは最初に我が子に対して種痘の実験を行ったと書かれていますが、そうではなく、他人の少年を実験台にしたのです。
当時は、牛痘や天然痘患者の膿を接種する事によって、どのような事態が起こるか、予防効果がどの程度か全く分からなかったのです。さすがのジェンナーも、愛する我が子を最初の実験台にするだけの確信と勇気が持てなかったのでしょう。
現代の倫理基準からすると、著しく人道に反した凄(すさ)まじい人体実験により、少年が牛痘の接種によって天然痘に対する抵抗力を獲得した事が明らかになったのです。
こうして、ジェンナーは「あらかじめ弱い病気に罹(かか)らせておけば、それに似た恐ろしい病気が流行しても罹らないで済む」事を実証したのです。
ジェンナーの開発した種痘のお蔭で天然痘の患者は激減し、1979年以降、世界中で一人の患者も発生していません。
ついに、1980年、WHO(世界保健機関)は天然痘根絶宣言を行いました。
もはや、自然界において、天然痘ウイルスは存在しないという訳です。
もちろん、私も医師になって32年間、天然痘の患者を診た事は一度もありません。
自然界には天然痘以外にも恐ろしい感染症が沢山あります。
炭疽(たんそ)、結核、破傷風、ポリオ、麻疹、新型インフルエンザなど枚挙に暇(いとま)がありません。
こうした疾病(しっぺい)にも、天然痘における牛痘のような、似た弱い病気を起こすものがあれば、それを用いて予防接種をする事ができます。
しかし、似た弱い病気は滅多(めった)に見つかるものではありません。
後(のち)に「免疫学の父」と呼ばれたフランスの細菌学者パスツールは、自然界から似た弱い病気が見つからないのであれば、弱い病気を起こすものを人工的に作り出せば良いと考えました。
彼は、病原性の高い炭疽菌を動物に植え継ぐ事で、病原性の弱い炭疽菌の変異(へんい)株(かぶ)を得ました。
これを注射した羊は、後(あと)から病原性の強い炭疽菌を注射しても炭疽を発症しませんでした。パスツールは炭疽の予防接種に成功したのです。
パスツールは炭疽ワクチンの後、狂犬病ワクチンも開発し、狂犬に咬まれた少年の命を救いました。
この少年は命の恩人(パスツール)の研究所の守衛になりましたが、第一次世界大戦で
悲劇に襲われました。
パリに侵略したドイツ兵達がパスツールの墓を暴(あば)こうとしたのです。
彼は恩人の墓を守ろうと必死に抵抗しましたが、力尽き、自殺したそうです。
パスツールは「人工的に弱い病気を起こさせて、それに似た恐ろしい病気を予防する材料となる物質」をワクチン(vaccine)と名付けました。
vaccineは雌牛のラテン語vaccaに由来しています。
パスツールは偉大な先人・ジェンナーの牛痘を用いた種痘の成功に敬意を表したのです。
何度も述べたように、ワクチンは「弱い病気を起こさせて、それに似た恐ろしい病気を予防する物質」です。この世に、完全に安全なワクチンなど存在しません。
将来いかに医学が発達しても、副作用(副反応)ゼロのワクチンは開発されないでしょう。
何しろ、原料が恐ろしい病原微生物やそれらが産生する毒素なのですから、当然です。
現在は様々な工夫が凝(こ)らされ、副作用が極めて弱い良質のワクチンが開発されていますが、完璧に安全なワクチンなどあり得ないのです。
医療関係者は予防接種を行う際に「このワクチンには副作用がありません」という説明をするべきではありませんし、受ける患者も副作用ゼロを期待してはいけません。
どんなに優れたワクチンでも、10万分の1、100万分の1といった微小な確率で有害な副作用が生じる事は避けられないのです。
次号へ続く