平成25年12月1日
前号で、子宮頚癌予防ワクチンを巡(めぐ)って右往左往する行政の愚かさと、そのしわ寄せを食らった医療現場が大混乱している事を述べました。
今月からは、ワクチンで何を防げるか、子宮頚癌とはどんな疾患か、ワクチンでどんな副反応があるかについて順に説明します。
ワクチンや予防接種について解説する場合、天然痘(てんねんとう)予防のために開発された種痘(しゅとう)にまつわる話から紹介するのが理解しやすいと思います。
今から200年以上前の1796年、イギリス人医師ジェンナーが8歳のフィップス少年に対して行ったのが世界初のワクチン接種とされています。
当時、天然痘は、天然痘ウィルスが起こす致死率40%という恐ろしい感染症でした。
一方、牛には人の天然痘に似た病気があり、牛痘(ぎゅうとう)と呼ばれていました。
牛痘は天然痘とは異なり、人に感染しても症状は軽微でした。
牛乳絞りの女性達には天然痘に罹(かか)る人がほとんどいませんでした。
彼女達は多くの乳牛に接するために、牛痘に感染する機会が多かったのです。
牛痘は人には軽い発熱や発疹を起こすだけで、天然痘のような重症の感染症を起こしません。牛乳絞りの女性達の手には、牛痘に感染した事を示す瘢痕(はんこん)が残っていました。
当時は、天然痘や牛痘の病原体がどのようなものか分かっていませんでしたが、ジェンナーは次のように推察しました。
1.牛痘に感染した人や牛の膿(のう)(うみ)には、病気を起こす原因物質が残っているだろう。
2.牛痘と天然痘は重症度に違いはあるが、似たような病気だろう。
3.牛乳絞りの女性達は、牛痘に感染すると体内に抵抗力が生まれ、その後は牛痘だけでなく、牛痘に似た天然痘にも罹らなくなるのだろう。
4.牛痘を接種して、あらかじめ弱い病気を起こしておけば、牛痘に自然感染した牛乳絞りの女性達のように体内に抵抗力が生まれ、後から恐ろしい天然痘が流行しても発症しなくて済むだろう。
そこで、ジェンナーは牛痘に感染した牛乳絞りの女性の病変部の膿を取って、フィップス少年の上腕部に接種しました。
少年の接種部位が腫(は)れましたが、全身感染には至らず、局所に瘢痕を残しただけでした。
少年はその後、病原体を含むと思われる天然痘患者の膿を接種されましたが、天然痘を発症しないで済みました。
「種痘」という言葉は、天然痘の種を植え付けるという意味です。
次号へ続く