平成25年11月1日
本年4月、改正予防接種法が施行され、子宮頚癌予防ワクチン(ヒトパピローマウィルス(HPV)ワクチン)がようやく定期接種(公費助成により対象年齢者は無料)として広く実施される事になりました。
ところが、6月14日に厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会の副反応検討部会が開催され、HPVワクチン接種後に持続的な疼痛(とうつう)を訴える症例の報告がなされました。
そして、「副反応の発生頻度がより明らかになり国民に適切な情報提供ができるまでの間、HPVワクチンの積極的な接種勧奨について一時差し控える」方針が決定されました。
その結果、子宮頚癌予防ワクチン(HPVワクチン)は、定期接種でありながら、接種勧奨が中止されました。
積極的な勧奨が再開されるまでの間、接種者が大幅に減少する事が想定されます。
また、接種を見合わせた人の中から、将来、大勢の子宮頚癌患者が発生する事が予想されます。
では、6月14日に厚生労働省健康局長より各都道府県知事宛(あ)てに発出された勧告を抜粋して示します。
「ヒトパピローマウィルス感染症の定期接種の対応について(勧告)
1.自治体は積極的な勧奨とならないよう留意する。
2.定期接種を中止するものではなく、希望者が定期接種を受ける事ができるよう、接種機会を確保する。
3.接種する場合は、積極的な勧奨を行っていない事を伝えると共に、ワクチンの有効性および安全性等について十分説明する。
4.副反応症例の速やかな調査を行い、評価し、積極的な勧奨の再開の是非を判断する予定である。」
なんと回りくどい表現でしょうか。
「積極的には勧めない」定期接種ワクチンとは、一体どんなワクチンでしょうか?
打つべきなのか、打たない方が良いのか、全く分かりませんね。
子宮頚癌の疫学や発生病理に無知な大多数の国民(特に思春期の女子やその親)が、この勧告を見て、HPVワクチンを打つ気になるでしょうか?
藤沢市でも事実上、HPVワクチン接種は停止しています。
当院でも、この勧告が出て以降、HPVワクチン接種を希望する人は一人もいません。
国はワクチン行政の責任を放棄しているとしか思えません。
厚労省発表の当日のNHKニュースでは、持続する四肢の痛みとけいれんを発症している女子の衝撃的な映像が流れ、視聴者に「HPVワクチンの恐怖」を植え付けるのに十分の効果を発揮していました。
しかしながら、HPVワクチンの副反応だけでなく、子宮頚癌の現状やHPVワクチンの作用機序などについて正確な情報を伝える報道を、残念ながら私は見た事がありません。
第一、HPVワクチン接種勧奨中止を決めた検討部会の委員10名の中には、子宮頚癌診療に携(たずさ)わる産婦人科医が一人もいないのです。
予防接種の被害を軽視してはいけませんが、被害があったからと言って「予防接種なんか止めてしまえ」という結論を軽々(かるがる)しく下してはいけません。
それでは、幼児的な思考停止です。
当院の若い女子職員達も、それまでHPVワクチンの接種を希望していたにもかかわらず、思考停止してしまいました。「怖いから打ちたくない」と言い出したのです。
本欄の目的は、HPVワクチンの効用と副反応の両面を客観的に比較検討し、皆さん(当院職員を含む)に冷静に判断して頂く一助とする事です。
次号へ続く