平成25年5月1日
先月20日、すでにTPP交渉に参加している11カ国すべてが日本の参加を承認しました。これにより、早ければ7月から日本もTPP交渉に加わる事になります。
しかし、先月12日に締結された日米事前協議の内容は、日本がアメリカに対して一方的に譲歩させられたものでした。すなわち、アメリカが日本車を輸入する際にかける関税は好きなだけ据え置く一方で、日本が輸入するアメリカ車の台数を2倍以上に増やす事を日本に約束させるという不公平な内容です。さらに日本郵政に対して、アメリカの民間保険会社と対等の競争条件を受け入れるまで、新たな保険業務の開始を許さないという理不尽な条件まで付けられました。
日本がTPP交渉に参加する前に、すでに完全な不平等条約になっているのです!
安倍首相は「今後の交渉で、あらゆる努力により、悪影響を最小限にとどめる」などと悠長(ゆうちょう)な事を言っていますが、事前協議の段階でこんな屈辱的な「降伏」文書に署名させられた、アメリカの属国日本が、TPPの本交渉で国益を守れる筈(はず)がありません。
前号までの説明を読んで下さった賢明な皆さんは、アメリカが日本に対して、営利企業の病院経営参入と混合診療の解禁を同時に要求してきた理由がお分かりになったと思います。日本がTPPに参加すれば、この要求が強まるのは必至です。
日本の医療保険制度では、検査・治療などの手技や投薬など診療行為の全てにおいて、細かく公定価格(診療報酬・薬価)が設定されています。日本の国民は全員、何らかの公的健康保険に加入しており、誰もが同じ価格で高レベルの医療を受ける事ができます。しかも、20年以上続く医療費抑制政策によって、その価格は低く抑えられています。
この状況下では、営利企業や投資家が日本の医療に参入しても、儲(もう)かりません。
日本で病院経営をして金儲けをするためには、現在の混合診療を禁止する医療保険制度は邪魔なのです。営利企業は沢山(たくさん)儲けて株主に配当しなければなりません。
そのためには、混合診療を解禁して自費診療を拡大する必要があるのです。
金持ちの患者を集めて、高額の自費診療を行えば高い収益を上げられます。
そして、高額の支払いに備えて、民間の医療保険に加入する人が増えますから、民間の保険市場が拡大し、国内・国外の保険会社が民間医療保険を扱うようになります。
貧乏人は民間医療保険の保険料など払えませんから、高額の自費診療を受ける事はできません。
高額な自費診療を行う病院が増えると、国は「病院は自費診療で儲ければ良い」と考え、公的医療保険の診療報酬を引き上げなくなります。地域に高所得者が少なく、公的医療保険で地道に診療していた地方病院は、経営が立ち行かなくなります。
株式会社病院は収益を上げるために、コスト削減も厳しく行わなければなりません。安全性が損なわれ、荒っぽい診療も横行するでしょう。医療の質の低下が懸念されます。
また、利益を優先する株式会社は、生き残りに迫られ、小児科や産科など訴訟リスクが高く不採算な分野から撤退するでしょう。また、少子高齢化が顕著な過疎地で病院を経営しても儲かりませんから、過疎地からは株式会社病院は撤退するでしょう。
こうして、日本がTPPに参加する事によって、日本の医療には所得による格差、地域による格差、診療科による格差が広がっていくでしょう。
3.手術手技や検査手技の特許権主張
日本がTPPに参加すれば、アメリカが薬価制度の廃止、営利企業の病院経営参入、混合診療の解禁に続いて要求してくると予想されるのが、手術手技や検査手技の特許権主張です。アメリカで開発された手術・検査の手技は、高い特許料を支払わないと、日本で行えなくなるのです。
金持ちしか高額な特許料は払えません。
貧乏人は命の値段も安くなってしまいます。
まさしく、地獄の沙汰もカネ次第です。
次号へ続く