平成24年5月1日
健康情報のウソ・ホント 第16回 マイナスイオン(続き)
株式会社「マイ○○」は次のように書いています。
「自然の中にはマイナスイオンがたくさんある。その中でも多いのが滝だ。水がはじける場所にはたくさんのマイナスイオンが発生している。特に自然界では、マイナスイオンは空気中で微細水滴が分裂するとき、水滴はプラスに帯電し、周囲の空気はマイナスに帯電する空気イオン化現象によっておきる。これをレナード効果と呼ぶ。」
しかしながら、水滴が激しくぶつかり合ってもイオン化などおこりません。
私は色々な文献を探しましたが、「レナード効果」という用語は見つからず、当然のことながら「レナード効果」に関する科学的な説明はありませんでした。
そのような物理現象は存在しないと結論せざるを得ません。
おそらく、レナードとはドイツの物理学者レーナルト(Leonard, Philipp Eduard Anton 1862.8.7-1947.5.20)の事だと考えられます。彼は陰極線の研究によって1905年ノーベル物理学賞を受賞しています。その他、落下水滴の振動現象や紫外線による気体の電離などに関する研究も行っています。けれども、「マイナスイオン」に関する記述は、彼の論文のどこを捜しても見当たりません。彼は「マイナスイオン」の研究など行ってはいないのです。
「レナード効果」という、いかにも科学的に聞こえるもっともらしい言葉は、後(のち)の世の「マイナスイオン」を飯(めし)の種にしたい連中がでっち上げた造語なのです。
確かに、滝のそばでは爽快感を得ることはあるでしょう。しかし、これは飛び散った水滴が気化する際に気化熱を奪う事による空気の冷却、都会の喧騒から離れた静けさ、空気の清浄さ、周囲の木々の緑などの快適要因で十分説明可能です。
あえて科学的に実証されていない「マイナスイオン」を持ち出す必要はありません。
次に、自称、マイナスイオン専門会社「△△企画」のマイナスイオン発生器「××ハウス」の宣伝文句を見てみましょう。
「『××ハウス』は1ccの空気中に850万個という大量のマイナスイオンを放出するので、頭痛、肩こり、花粉症、気管支炎、睡眠などに高い効果が期待できる。」
では、この「大量のマイナスイオン」が果たしてどの位「大量」なのかを検証します。
0℃ 、1気圧、1mlの空気中に存在する気体(主に窒素と酸素)の分子数は2.7×1019 個です(この数をロシュミット数と呼びます)。
この中に850万個の「マイナスイオン」が存在すると仮定すると、その割合は
850万÷(2.7×1019)=3.1×10-13 となります。光化学スモッグで人体に害を及ぼすオゾンの濃度が0.12ppm(ppmとは1×10-6)ですから、「マイナスイオン」が有害なオゾンの何倍あるかを計算すると、(3.1×10-13 )÷ (0.12×10-6 )=約2.6×10-6となります。
つまり、10万分の1以下です。
「大量のマイナスイオン」といっても、オゾンの10万分の1以下しかありません。
宣伝文句で「大量」といっても、実は、こんなに桁(けた)違いに薄い濃度しかないのです。
百歩譲って、仮に「××ハウス」が、存在その物が疑わしい「マイナスイオン」なる物質を本当に「850万個」発生しているとしても、実際これほどの低濃度で「頭痛、肩こり、花粉症、気管支炎、睡眠などに高い効果が期待できる」ものでしょうか?
できる筈(はず)がありません。
次号へ続く