平成24年4月1日
健康情報のウソ・ホント 第15回 マイナスイオン(続き)
そもそも、「マイナスイオン」などという科学用語は存在しません。
謂(い)わば、Japanese English です。
イオンという科学用語はあります。中学の理科や高校の化学で習ったので、覚えている方もいるでしょうが、私を含めて、忘れてしまった方のほうが多いでしょうから、おさらいしておきます。
イオンとは、中性の原子または原子団(分子)が1個または数個の電子を失うか,あるいは1個または数個の電子を得て生ずる粒子をいいます。
例えば、食塩を水に溶かすと生じるナトリウムイオン(Na+)と塩素イオン(Cl−)はそれぞれ、陽イオンと陰イオンです。
通常の状態(常温、常圧)でイオンが存在しやすいのは,水溶液のような液体中においてです。水溶液中においてイオンが容易に存在し得るのは、イオンと溶媒である水との相互作用、すなわち水和と呼ばれる現象によります。
イオンは帯電しているために、異符号のイオンどおしが強く引き合い、同符号のイオンどおしは強く反発し合います。
ところが、水溶液中では、水和のためにイオン間の電気的な相互作用が弱められており、イオンとして存在しやすくなっているのです。
私達が化学で勉強したイオンも水溶液中での話でしたね。
一方、気体においては高温,低圧の状態でのみ、少数のイオンが存在し得るにすぎません。具体的には、雷などの放電や紫外線などによって生成します。
これを電離と呼び、発生したイオンを空気負イオン(negative air ion)(「マイナスイオン」ではありません)、空気正イオン(positive air ion)といいます。
大気中に生成した空気イオンは、正と負の空気イオンが結合したり、大気中に拡散したり、粉塵や霧などの粒子に付着したりして消滅します。
つまり、空気イオンは大気中に安定して存在する物質ではないのです。
仮に、株式会社「マイ○○」のいう「マイナスイオン」が空気負イオンの事を指しているとしても、「大気が汚れて湿度が高いときには、空気中にプラスイオンが多く」なったり、「大気が澄み切って湿度が低く、すがすがしい状態のときは、空気中にマイナスイオンが多く」なったりする訳がありません。
なぜなら、電離によって発生する空気負イオンは必ず空気正イオンと同数であり、しかも、生成後急速に消滅してしまうからです。
まして、大気の汚れによって正イオンが増えたり、すがすがしい時には負イオンが増えたりするなどというのは、噴飯物(ふんぱんもの)の馬鹿馬鹿しさです。
一体、どんな顔をしてこんなデタラメを書いているのか、見てみたいものです。
さらに、「肺から吸い込むプラスイオンは、酸素と一緒に血液中に溶け込み血液を酸性に傾け、活性酸素を増加させる。身体にプラスイオンが多く影響されるようになると、細胞膜におけるナトリウムやカリウムなどの電解質や老廃物の通過が悪くなり、栄養成分も細胞内に入りにくくなる。悪い老廃物が外に排出できなくなると身体に毒素がたまり、病気が誘発され、老化が進行する。プラスイオンは、まさにあらゆる病気の原因とも言える。一方、マイナスイオンが強くなると、生体組織を構成する細胞の活性が高まり、膜を隔てての物質の輸送や交換の新陳代謝が活発になり、身体の生命力が強くなる。」
というくだりに至っては、もはや医学を知らない門外漢の口から出まかせとしか言えない文章です。
血液のpHが空気中に存在する微量のイオンによって変化する筈(はず)がありませんし、細胞膜の透過性に影響が及ぶ事などあり得ません。
「そもそも、自然の中の空気のきれいな所では、気持ちが良いではないか!そうした感覚も、マイナスイオンの効果だ。」
何と人を馬鹿にした言い方でしょうか。空気のきれいな所では気持ちが良いのは当たり前で、わざわざ「マイナスイオン」を持ち出してこじつける必要など全くありません。
要するに、株式会社「マイ○○」が推奨する「マイナスイオン」などという物質は存在しないのです。
次号へ続く