平成23年12月1日
健康情報のウソ・ホント 第11回 コエンザイムQ10(続き)
コエンザイムQ10は、ユビキノンと呼ばれる物質の1種です。
ユビキノンは動物や植物の細胞内のミトコンドリアという構造物の中に存在する物質です。ミトコンドリアとは細胞の中でエネルギーを生産する工場です。
もう少し詳しく説明します。ミトコンドリアの中で電子伝達系というシステムが働いてATP(アデノシン-3-リン酸)というエネルギー物質が生成されます。
このATPはすべての生命現象のエネルギー供給にあずかる大切な物質です。
従って、ミトコンドリアは細胞の生命にとって極めて大切な器官であると言えます。
コエンザイムQ10に代表されるユビキノンは、細胞のミトコンドリア内で、エネルギー生産システムである電子伝達系において、補酵素という役割を演じています。
補酵素を英語ではcoenzyme(コエンザイム)といいます。ヒトのような高等動物のユビキノンは、イソプレン基という構成要素を10個持っていることからユビキノン-10と呼ばれ、コエンザイムQ10という別名が与えられたのです。
Qはユビキノン"ubiquinone"という名前の中の"quinone"の頭文字です。
ちなみに、ユビキノンという名称は、動物、植物、微生物の細胞のミトコンドリア内にあまねく存在する(ubiquitousである)ところから付けられました。
広告会社の宣伝文句の中の「コエンザイムQ10は多くの生物のエネルギー源であるATPを作り出す働きをする補酵素」というくだりは正しいと言えます。しかし、「もともと細胞の力の源なのだ。」という表現は誇大です。コエンザイムQ10は細胞のミトコンドリア内で、エネルギー生産システムである電子伝達系に関与する様々な物質の1つに過ぎません。
コエンザイムQ10の薬理学名はユビデカレノンといい、日本では古くからうっ血性心不全の治療薬として使用されてきました。投与量は1日30mgと定められています。
しかし、うっ血性心不全に投与して心機能改善という効果を明確に実証した研究はありません。米国心臓学会も、ユビデカレノン(コエンザイム Q10)の治療目的での摂取について、「心不全の治療法に対しては、更に多くの科学的根拠が蓄積されるまで推奨できない」(心不全治療ガイドライン 2005)と位置づけています。
つまり、心臓に関しては薬剤としての効能はほぼ否定されているのです。
現在では、一般臨床の場でコエンザイム Q10を処方する医師はほとんどいなくなりました。2001年、医薬品の範囲に関する基準(いわゆる「食薬区分」)の見直しに伴い、薬剤としての実証性のなさから、コエンザイム Q10は医薬品から食品へと変更されました。これを機に、日本の複数の製薬メーカーが一般消費者をターゲットとして、一般用医薬品(OTC医薬品)・医薬部外品として発売するようになったのです。
医薬品ではありませんから、規制の対象外であり、医師の処方箋なしに消費者が直接店頭などで購入できるようになりました。
さらに2004年、化粧品基準が改正されて、健康食品や化粧品への利用に道が開かれ、雨後の竹の子の如く、数多くのコエンザイムQ10関連商品が販売されています。
以上の説明から、広告会社の「コエンザイムQ10はもとは医薬品だったが、規制緩和によりサプリメントや化粧品にも配合できるようになったことから、健康だけでなく美容のためにも注目されるようなってきた。」という説明が全くのデタラメである事が理解頂けるでしょう。規制緩和によってサプリメントや化粧品としての道が開けたのではありません。医薬品としての効果が否定されたため、仕方なく矛先(ほこさき)を一般消費者に向け、その無知につけ込んで詐欺的な営業販売をしているだけの事です。
次号へ続く