大騒ぎするのは、やめましょう。 その3

平成23年6月1日

 

 今月は、水道水の放射能汚染について述べます。

 3月23日、東京都の金町浄水場の水道水に暫定規制値を超える放射性物質が含まれていると発表されました。まだ、皆さんの記憶に新しいと思います。その後、各自治体から、乳児による水道水の摂取を控えるよう呼び掛けが行われています。そのため、乳児のいる家庭、乳児を預かる保育所、乳児が入院する病院等で大きな混乱が起きました。現在でも、「水道水は危険だ」と思って、ミネラルウォーター等の飲料水を買って飲んでいる方が多い事でしょう。
 暫定規制値、Bq(ベクレル)、mSv(ミリシーベルト)の用語については既に説明しましたので、4月号と5月号をご覧下さい。放射性ヨウ素の暫定規制値は飲料水では300Bq/kgと定められていますが、乳児ではさらに厳しく1/3の100Bq/kgに制限されています。放射線による発癌率が、乳児では成人の3倍と考えられているからです。

放射性物質の中でも、とりわけ放射性ヨウ素が注目されるのは、ヨウ素が甲状腺で産生される甲状腺ホルモンの構成要素の1つだからです。つまり、放射性ヨウ素を摂取すると、甲状腺ホルモンの原料として甲状腺に運ばれ、甲状腺癌を発生させるという危険性が指摘されているからです。その実例として頻繁に取り上げられるのがチェルノブイリ原発事故です。この事故で小児に甲状腺癌が誘発されたと、巷(ちまた)では言われています。
しかし、事故前に比べて事故後に、放射性ヨウ素が原因で甲状腺癌が有意に増加したと証明する疫学的データは存在しません。
 では、仮に乳児が暫定規制値上限の100Bq/kgの放射性ヨウ素を含む水道水を毎日1リットル(1kg)飲んだとして、1年間でどれだけの放射線被曝をするか計算してみましょう。
1Bq=2.2/100,000mSvですから、100(Bq)×1(kg)×365×2.2÷100,000=0.8(mSv)となります。
0.8mSvという放射線量は、日本における自然放射線(年間2.4mSv)の1/3に過ぎません。
すなわち、暫定規制値を超えた飲料水だからと言って無暗(むやみ)に恐れる必要はないのです。
 最も放射線に対する影響を考慮しなければならない乳児でも問題にならない程度ですから、放射線の影響がずっと小さい成人では、水道水が暫定規制値を「超えた、超えない」で騒ぐ必要はありません。
 
 ここで、自然放射線について説明しておきましょう。
我々人類は、普通に生活していても、大気、食物、大地、宇宙線等からの放射線を受けているのです。これを自然放射線といいます。日本では年間2.4mSvです。ブラジルやイランでは年間10mSvに達します。食物からも放射線が出ているなんて、皆さん、ご存じなかったでしょう?
 原子力発電所事故など起きる前から、我々が普段口にしている全ての飲食物には放射性物質が含まれているのです。例えば、元々、牛乳には50Bq/kg、ホウレンソウには200Bq/kgの放射能が存在します。そもそも、我々の身体には必須元素として体重1kg当たり2gのK(カリウム)が存在しますが、その0.01%はβ線を出すK-40です。
ですから、体重60kgの人では1秒間に3,600Bqに相当する放射線を出しています。
このように、我々は、生まれた時から、放射能に囲まれて生活してきたのです。
 
ついでに、妊娠・授乳中の女性への水道水の影響についても記しておきます。
国際放射線防護委員会(ICRP)は「100mSv未満の胎児被爆量は妊娠継続をあきらめる理由にはならない」と勧告しています。胎児の被爆量は母体の被爆量の数分の1と考えられています。母乳中に分泌される放射性ヨウ素の量も、母体が摂取した量の数分の1と考えられています。
  仮に、妊娠(授乳)中の女性が、成人の暫定規制値である300Bq/kgの水を毎日2リットル飲むとすると、胎児(乳児)の被爆量が何mSvになるか計算してみましょう。
妊娠(授乳)期間を10カ月として、胎児(乳児)の被爆量が母体の被爆量の1/2(多めに見積もって)として計算すると、2.0mSvとなります。つまり、日本における年間自然放射線よりも少ないのです。多めに見積もってもこの程度です。妊娠・授乳中だからという理由で、暫定規制値を超えた水道水を殊更(ことさら)に避ける必要はない事がお判りでしょう。
  私は、毎日、水道水を沸かしたお湯でお茶を飲んでいます。
妊娠・授乳中のお母さんも、スーパーや通信販売でペットボトルの水を大量に買い込む必要はありませんよ。水道水を平気で飲んでも、かまわないのです。

 ここで、読者の質問に答えて、レントゲンについて簡単に説明します。
医療機関でレントゲン撮影に用いる放射線はX(エックス)線です。X線は電子を高電圧で加速し、ターゲット(陽極)に衝突させて発生させます。つまり電気的に発生させるのであって、放射性物質を用いません。レントゲン室に放射性物質が漂(ただよ)っている訳ではありませんから、レントゲン室に入っただけで「放射能を浴びる」事はありません。
 また、胸部X線撮影での被爆量は0.05mSvです。つまり、50回撮影しても、やっと自然放射線1年分程度の被曝です。医師がX線撮影を勧めると被曝を恐れて拒否する方がいますが、全くのナンセンスです。放射線被曝が怖くて胸のレントゲン撮影を受けられないと言うのなら、外を歩く時には、空気や地面からの自然放射線から身を守るために、鉛でできた防護服で全身を覆(おお)わなければいけなくなります。
 ちなみに、私の父(84歳)は、今年、私の母校である東京医科歯科大学の附属病院に2カ月半入院し、私の同級生の心臓外科教授に執刀してもらい大動脈弁置換術を受けました。高齢の上、動脈硬化性疾患を複数併発しているため、術前には考え得る限りの、有りと有らゆる画像検査を受けました。術後には、肺炎を併発したため、連日、朝夕の2回胸部レントゲン撮影を受けました。術前・術後を合わせると約400回(20mSv)もの放射線被曝を受けた勘定になりますが、もちろん何の障害もありません。

 今回で、放射線被曝に関するお話は終了します。少しは安心して頂けましたか?
次回から、「健康情報のウソ・ホント」の連載に戻ります。

お知らせ

平成30年8月13日(月)から16日(木)まで休診致します。

年末年始は12/29から1/3まで休診します。

1/4(木)から通常通り診療します(平成29年12月25日)。