2009年4月1日
今回も、引き続き、我が国の周産期医療(ひいては医療制度その物)の崩壊原因の一つである社会保障費削減政策と医師不足について述べます。
困った事に、政府は、社会保障費予算を削減しつつ「医師不足」を解消する手段として、「開業医の活用」を提唱しています。具体的には、開業医の夜間診療を促したり、開業医が救急病院の外来診療へ参加する事を奨励したりし始めたのです。実際、都立墨東病院の産科医不足を補うために、近隣医師会の有志の医師達が墨東病院の救急医療に交替で参加する動きも見せています。また、一方では、全国で病院勤務医達が厳しい労働実態に疲弊し、それに見合わない安い報酬に見切りを付けて、現場から「立ち去り」、開業医に転向する現象も起きています。
では、開業医はそれほど暇で儲かる稼業なのでしょうか?
日本医師会が一昨年(2007年)、開業医の勤務時間や年収に関する調査結果を発表しました。それによると、
①1週間の男性医師の勤務時間を比較すると、30代では開業医が51.1時間、勤務医が52.2時間と勤務医の方がやや長い。ただし、40代では勤務医の 49.6時間に対し、開業医が55.6時間と逆転。その後、70代に至るまで開業医の方が勤務時間が長く、その差も拡大する傾向にあった。
②個人立診療所開設者の平均手取り年収の1,070万円を他職種と比べると、中小企業社長
(1,190万円)や金融・保険業の部長級(1,000万円)とほぼ同水準だった。
この結果から言えるのは、開業医の勤務時間も病院勤務医と同じかそれ以上に長く、勤務医の過重労働の負担を開業医に転嫁するのは無理だという事です。要 するに、「開業医も楽じゃない」という事です。実際、私自身の一日を見ても、朝8時半から夜6時まで診療し、昼休みには往診に出かけたり大きな検査をし、
診療後には医師会活動や講演会に参加し、帰宅は10時という生活ですから、たとえ「病院の救急外来を手伝え」と言われても不可能です。また、2年毎に行わ れる診療報酬マイナス改訂の度に収入は減少し続けており、多額の借金を背負って開業するのはワリに合いません。
「開業医の活用」によって「医師不足」を解消しようという政府の浅はかなもくろみは、結局、勤務医に強いている献身的で過酷な労働を、一部の善意ある開業医に肩替わりさせようとするものに他なりません。これでは、根本的な解決にはならないのです。
「医師不足」を永続的に解決し、医師の労働条件を改善し、産科や小児科・外科等の救急医療を安全に行うためには、社会保障費を大幅に増やし、診療報酬を増額する以外に道はないのです。
次回は、我が国の周産期医療(ひいては医療制度その物)の崩壊のもう一つの原因である医療訴訟について述べます。