令和元年11月1日
私の手元に精神医学の教科書が2冊あります。
①「最新精神医学-精神科臨床の基本- 改正第27版」諏訪 望 著 南江堂 1979年
②「標準精神医学 第6版」監修 野村総一郎 他1名 編集 3名 医学書院 2015年
①は私が学生時代に読んだ教科書です。
②はこの原稿を書くのに参考にするため購入しました。
当然、①の方が古く、②は①の36年後に出版されました。
何と、②の編集者3名の内、2名は私の同級生です(尾崎紀夫氏:洛星中学・高校の同級生、朝田 隆氏:東京医科歯科大学の同級生)。
2冊の目次を見比べると、愕然(がくぜん)とします。
①にある病名の多くが②にはないのです。
別の分野の教科書かと思ってしまうほどです。
かつては二大精神疾患と呼ばれた精神分裂病、躁うつ病は、それぞれ統合失調症、双極性障害に変わってしまいました。
痴呆も認知症に変わっています。
これは今では完全に定着しているようです。
また、自閉症も、今では自閉スペクトラム障害と呼ぶそうです。
その他、②にはパーソナリティ障害、性同一性障害、反応性アタッチメント障害、トゥレット症など、耳慣れない病名のオンパレードです。
私が若き勤務医時代に専門としていた消化器外科学の分野では、食道炎、胃癌、膵癌など今でも立派に通用する病名が大部分です。
しかるに、わずか30年余りの間に、精神医学の分野で、これほど多くの病名が変更されたのは、なぜでしょうか?
それは、上記の朝田 隆氏によると、患者の尊厳を重視すると共に、家族介護者への配慮からだそうです。
そこで、疾患や症状に付す病名・呼称について、私見を述べます。
1.統合失調症
統合失調症はかつて「精神分裂病」と呼ばれていました。
その名称には「精神荒廃に至る予後不良の疾患」という古い疾患概念に基づくイメージや「人格が分裂する病気」という誤解が付きまといました。
そこで、このような偏見(精神医学の世界ではスティグマstigma(らく印)と呼ぶそうです)を払拭(ふっしょく)するために、2002年に「統合失調症」に呼称変更されました。
偏見をなくすための、単なる目くらましの呼称変更なら反対したくなります。
しかしながら、「統合失調症」の呼称には、へそ曲がりの私も賛同せざるを得ません。
「精神が分裂する」という、精神の問題に重点を置いた捉え方から、「統合」すなわち「頭のまとまり」が「失調」すなわち「失われる」という、脳の機能的な問題に重点を置いた捉(とら)え方への変換が的を射ているからです。
なぜなら、ド-パミンという神経伝達物質が過剰であるため脳の機能に異常が生じるのが病態であり、単に「精神が分裂」しているのではない事が分かってきたからです。
まだ仮説の域を出ていないのですが、最も重要な仮説です。
次号に続く