平成26年12月1日
厚生労働省医政局が作成した「在宅医療・介護あんしん2012」によると、日本では入院医療・施設介護が中心であり、自宅で死亡する人の割合が、1950年の80%から2010年には12%にまで低下したそうです。
しかしながら「国民の60%以上が自宅での療養(死)を望んで」おり、「今後は、可能な限り、住み慣れた生活の場において必要な医療・介護サービスが受けられ、安心して自分らしい生活を実現できる社会を目指す」のが国策だそうです。
昨今、「無駄な延命治療など受けないで、家族みんなに看(み)取られて自宅で穏やかに死にたい」という考え方が流布(るふ)しています。
医師、看護師、介護職などの医療福祉関係者にもこの考えを支持する人が増えており、「在宅死」や「家庭での看取り」をテーマにした研修会があちこちで開かれています。
「尊厳死」の概念も、この潮流の中で生じたものです。
私には、この風潮が、厚生労働省によって巧妙にまき散らされた「在宅死は素晴らしく、病院死は不幸である」という幻想の産物であるとしか思えないのです。
そもそも、本当に「国民の60%以上が自宅での療養(死)を望んで」いるのでしょうか?中央社会保険医療協議会(中医協)の在宅医療に関する資料(平成23年11月)を見てみましょう。
1.本人が介護状態になった時に希望する療養場所として、自宅・子供の家などの居宅を希望する人は45%ほどで、50%は病院・介護施設への入院・入所を希望しています。
2.介護が必要な家族を自宅で療養させたいと希望する人は僅(わず)か13.9%です。
3.終末期の療養場所に関する希望として、自宅で最後まで療養したい人は何と8.8%しかいません。
9割以上の人が自宅以外の場所で最期(さいご)を迎えたいと思っているのです!
つまり、患者や介護利用者においては、多くの人が「できれば住み慣れた自宅で療養したいが、いざとなれば入院して最期を迎えなければならないだろう」と考えているのです。
一方、実際に世話をする家族においては、「今の状況では満足な介護はできない。
環境の充実した病院・施設に入院・入所を希望しても、空きも無ければ費用も無い。
当面、在宅医療をお願いしながら、不十分な介護保険を利用しつつ、最後まで在宅介護を覚悟しなければならない」と考える方が多いのでしょう。
在宅、施設のいずれを希望するにせよ、不本意な状況を余儀なくされているのが、多くの患者・家族の実情でしょう。
現状は、厚生労働省が目指す「住み慣れた生活の場において必要な医療・介護サービスが受けられ、安心して自分らしい生活を実現できる社会」ではないのです。
この様な状況では、「尊厳死」など絵に描いた餅です。
次号へ続く