平成25年4月1日
混合診療禁止の第2の理由は、混合診療を認めると、安全でない治療法や医薬品が国内に広がる事に道を開くからです。
新しい技術や医薬品が保険収載されるまでにはある程度の期間を要します。
それは、安全性・有効性を確認する必要があるからです。
保険収載を待たずに自費で、安全性・有効性の確認も無いままに使えるようにする事は、患者にとって危険であるばかりでなく、治療を行う医師に対する不信も招きます。
さらに、新しい技術や新薬を開発する企業も、混合診療が認められるなら、面倒な臨床試験(安全性・有効性を確認するための検討)を行う手間を省いて、保険収載をやめてしまう可能性が高いのです。
つまり、健康保険では最先端の治療を受けられなくなってしまうのです。
混合診療禁止の第3の理由は、混合診療を認めれば、医療に貧富の格差を持ち込む事になるからです。
もしも混合診療を認めれば、先進医療や新薬は、その部分のみ全額自費で受けられるようになります。ただし、全額自費部分を支払えるのは金持ちだけです。
貧乏人は健康保険でしか治療を受けられませんが、既述したように、最新技術や新薬は健康保険の給付範囲ではなく(健康保険では受けられなく)なってしまいます。
必然的に、最新の治療が受けられるかどうかはカネ次第という格差社会が到来します。
これで、混合診療が禁止されている3つの理由がお分かり頂けたと思います。
混合診療が全面的に認められると、公的医療保険で受ける事ができる医療は最小限に縮小する反面、保険の利(き)かない医療が拡大し、患者負担が際限なく増えます。
前号で例に挙げた胃癌患者Aさんの場合、必要なのは混合診療の解禁では決してありません。世界標準となっている有効で安全な新薬を速やかに保険収載する事こそが、本当の解決策なのです。
続いて、「非営利、公益を第一義とする日本の法制度」について説明します。
医療法は、医療を営利の対象とする事を厳しく禁じています。また、医師には医療を司(つかさど)るだけでなく、基本的人権の担い手であるとの立場も与えています。
そして、「経営も含めて医師が担う」事により、医療の公益性も保持しています。
従って、医療法人の利益を出資者に配当する事は禁じられています。
利益は全て設備や人材に再投資するよう義務づけられているのです。
一方、営利企業である株式会社は、生業(なりわい)として反復継続して利益を上げ、それを株主に配当する事を目的としています。確かに、医療法で定める医療機関が医療の再生産を行うためには、一定の利益を必要とします。また、医師が高度な専門性に見合うだけの報酬を得るためにも、やはり一定の利益を必要とします。しかし、これらの利益と、株式会社が追求する「営利」とは、全く次元が異なる異質のものなのです。
「公益医療」の目的は、国民の生命と健康を保持するために、全ての国民に、いつでも、どこでも、最適な医療を提供する事です。ここが、営利の追求を目的とし、医療を営利の手段や投機の対象として扱う「株式会社の医療」との根本的な違いです。
また、医師法は医師に診療の求めに応じる義務を課しています。
たとえ支払い能力に欠ける患者であっても、医師は診療を拒否できません。
しかし、株式会社では、お金を回収できないことが分かっている人にサービスを提供すれば背任行為となります。
このように、「公益医療」と「株式会社の医療」とは、本質的に対立するものなのです。
次号に続く