医学の歴史を訪ねて 第40回 フィレンツェ編 その20 - hajime-clinic

医学の歴史を訪ねて 第40回 フィレンツェ編 その20

令和6年2月1日

 

ウッフィツィ美術館 

5.ヘルメス
 令和591日号の本欄で、全能の神ゼウスが女神マイアと交わり、息子ヘルメスが生まれたと書きました。

ギリシャ神話におけるヘルメスは、ゼウスの「伝令」で、「盗み」の神でもあります。

この点について、一例を挙げます。

 ゼウスの妻ヘラにはイオioという巫女(みこ)がいました。

イオは清らかで美しい娘だったので、天界のゼウスが見逃す筈(はず)がありません。

早速、イオに言い寄ったゼウスが、二人の周囲に金色の雲を集めて、イオと愛し合うようになりました。

 ある日、嫉妬(しっと)に狂ったヘラが天上から降りてきました。

慌(あわ)てたゼウスは、イオを白い牛に変えて、ヘラの目をごまかそうとしました。

しかし、ヘラはこれを見抜き、ゼウスから無理やり牛を奪い、百の目を持ち絶対に眠らないという巨人アルゴスを見張りに付けました。

 牛の姿に変えられたイオが不自由な生活を強いられているのを、ゼウスは不憫(ふびん)に思いました。

ゼウスは、せめて愛人イオが食べる雑草を、おいしい草花にしてやろうと、紫色の美しいスミレを、イオの周(まわ)り一面に咲かせました。

 さらに、ゼウスはヘルメスを派遣して巨人アルゴスを殺させ、イオ(牛)を解放しました。その後、イオはヘラによって送られたアブに刺されながらも、世界中を放浪しました。そして、ようやくエジプトで人間の姿に戻って息子エパフォスを生み、エジプト人からはイシスと呼ばれる女神として崇(あが)められるようになりました。

 

 古代ギリシャ人は、イオioの花という意味で、スミレをイオーンionと名付けました。イオーンionは、英語ではヴァイオレットvioletです。

 19世紀、フランスの化学者がヨウ素(ヨード)を発見しました。

ヨウ素は熱すると、美しい紫色の蒸気を発生します。

化学者は、蒸気がスミレの花のようだという理由で、「すみれ色のion」+「~に似た eidos」=「ヨードiode」と名付けました。

  ヨウ素は甲状腺ホルモンを合成するのに必要なため、人にとっては必要欠くべからざる元素です。

また、ヨウ素は消毒薬としてもよく用いられます。

ヨウ素のアルコール溶液が消毒薬のヨードチンキ(ヨーチン)です。

ヨウ素とヨウ化カリウムをグリセリンに溶かすと、喉(のど)に塗るルゴール液ができます。

ヨウ素とポリビニルピロリドンの複合体はポビドンヨードと呼ばれ、うがい薬のイソジンガーグルとしてよく知られています。

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