医学の歴史を訪ねて 第15回 ヴェネツィア編 その10 - hajime-clinic

医学の歴史を訪ねて 第15回 ヴェネツィア編 その10

令和4年1月1日

 

明けましておめでとうございます。

今年も、楽しく、ためになる話をしますので、お付き合い下さい。

 

サンタ・ルチア(続き)

 

 ルチアの殉教(信仰する宗教のために自分の命を捨てること)はローマ全土に知れ渡りました。

6世紀には、彼女をキリスト教の守護者として、教会全体で讃(たた)えるようになりました。

現代では、目・視覚障害者・シラクサ・ナポリ・ヴェネツィアの守護聖女として知られています。

ナポリにはサンタ・ルチアという名の港もあります。

ダンテの「神曲」では、聖ルチアは天上の光を運ぶ女性として描かれています。

 第4回十字軍がシチリアから彼女の遺体を運び、ヴェネツィアの教会に祀(まつ)りました。

この教会はヴェネツィア本島の玄関サンタ・ルチア駅を新設する際、解体されました。

この時、教会に安置されていた遺体を移したのが、駅のすぐそばのサン・ジェレミア教会です。

沢山のランプが灯(とも)る主祭壇のガラスケースの中に、今も聖ルチアは眠っています。

 

 光の明るさを表す単位として、ルクス(lux)やルーメン(lumen)が国際的に用いられます。

この言葉の元は、ラテン語で「光」を意味するlux(ルークス)やluceo(ルーセオー)です。

合成語の前綴りとして用いられる時はluci-となり、「明るい」とか「透き通った」を表します。

聖ルチアの名前Luciaも、1ucidus via(ルーシドゥス ヴィア、光の道)の略です。

 医学用語でも、「透明」な体液や、「清明」な意識を表すのに、lucidと表現します。

lumen(ルーメン)は「内腔(ないくう)、管腔(かんくう)」を意味しますが、「光の入る開(ひら)けた所」なのです。

 ラテン語のlux(ルークス)から、英語のluxe(ラックス)(上等)やdeluxe(デラックス)(豪華な)、luxury(ラクシュリー)(贅沢(ぜいたく))などの言葉が生まれました。

日本語でも豪華な物をラグジュアリーと呼びます。

「光輝く」から、luxuryなのです。

 また、よく使われるillustrate (イラストレイト、図解する)illumination(イルミネーション、照明)も、元は「光をともす、明らかにする」という意味です。

 ローマ神話には、Lucina(ルーキーナ)という女神が登場します。

この名前は元来、「光の中に何かをもたらすもの」という意味ですが、「暗闇から明るい世界に子供を引き出す神」、すなわち出産の守り神です。

Lucina(ルーキーナ)には「月」という意味もあります。

暗闇を明るく照らすからです。

 

 ついでに、もう一つ。

ローマ神話にはDiana(ダイアナ)という「月と狩猟の女神」もいます。

ですから、Diana(ダイアナ)という女性名は「月」を連想させます。

  ダイアナと言えば、ウェールズ公妃ダイアナを思い出します。

彼女は、1981年にイギリスのチャールズ皇太子と結婚し、ウィリアム王子・ヘンリー王子の2子をもうけた後にチャールズと離婚し、1997年にパリで交通事故による不慮の死を遂げました。

ダイアナの名にふさわしく、暗闇を明るく照らすような、美しい女性でしたね。

 

 

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